研究

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腸管における多細胞相互作用機構の解明 ~炎症性腸疾患の根治療法の実現に向けて~

准教授 香山 尚子(高等共創研究院)

  • 全学・学際など
  • 高等共創研究院

研究の概要

大腸や小腸といった腸管組織は、腸内細菌が生息する管腔と免疫細胞が局在する粘膜固有層が、単層の上皮細胞により隔てられています(図1)。腸管粘膜に慢性の炎症が生じる炎症性腸疾患(IBD)は、潰瘍性大腸炎とクローン病に大別され、世界的に患者数が急増しています。IBDは「遺伝的素因」に加え、粘膜免疫の異常と腸内細菌や食事成分などの腸内環境因子が複雑に絡み合い発症する病気です。私たちは「上皮細胞・免疫細胞・腸内細菌・間葉系細胞」の4者による異種細胞間相互作用が腸管恒常性維持・炎症制御機構に関与している可能性を見出しました。現在は、IBDの根本的な治療法の開発のために、IBD患者の遺伝子情報をもとに異種細胞間相互作用機構の破綻機序の解明を行うとともに、in vitroにおける腸管組織再構築システムの確立を進めており、これまで困難とされてきたIBD個別治療の飛躍的向上につながることが期待されます。

図1 腸管組織における異種細胞間相互作用の乱れは多様な疾患の発症・病態形成に関与する

研究の先に見据えるビジョン

多様なヒト炎症性疾患の病態解明や新規治療法への貢献

多IBDの経過は、寛解を維持するために継続的な内科治療を必要とし、長期にわたる治療の過程で大腸癌を合併するリスクが高くなります。腸管組織は、上皮細胞、全身の60%の免疫細胞と50%の末梢神経が存在する場であり、腸管環境因子の組成変化が多様な疾患発症・病態形成に深く関わることが示唆されています。私たちは、健康な腸が維持されるために必要な多様な細胞種による相互作用の仕組みを解明するとともに、生体外で腸内細菌とヒト腸管細胞の相互作用解析が可能なGut-on-a Chipシステムを開発し、創薬研究への新規技術提供につなげることを目指しています。さらに、IBDのみならず腸管免疫系や腸内細菌叢の異常が関与する関節リウマチ、多発性硬化症などの病態解明、新規治療法(薬)の標的分子・細胞の同定につながる分子基盤提供に貢献することを目指しています。

担当研究者

准教授 香山 尚子(高等共創研究院)

キーワード

粘膜免疫/炎症性腸疾患/ 腸内細菌/獲得免疫/腸管組織/間質細胞

応用分野

腸管恒常性維持機構に関する研究技術開発/炎症性腸疾患の発症原因の解明/IBD個別治療法(薬)の開発

※本内容は大阪大学 経営企画オフィス制作「大阪大学若手研究者の取組・ビジョン2022」より抜粋したものです。