研究 (Research)

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「熱」が生体に与える影響の解明 ~細胞レベルで熱を測り、制御する手法の開発~ (Elucidating the effects of ‘heat’ on living organisms – Development of methods to measure and control heat at the cellular level)

准教授 鈴木 団(蛋白質研究所) SUZUKI Madoka(Institute For Protein Research)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 蛋白質研究所 (Institute for Protein Research)

研究の概要

様々な細胞の機能や病態化メカニズム解明への期待から、我々の研究グループは生物の積極的な熱産生に着目しています。そこで、熱産生を細胞内部の微小領域で計測できるナノ温度計の開発を、低分子化合物の蛍光色素や蛍光ナノ粒子を用いる手法として開発しています(図1) 。また細胞の微小な熱産生を模倣し、熱に対する細胞の応答、あるいは細胞内の化学的・物理的過程の反応を検出する試みを並行して進めています。

具体的には、振りかけるだけで狙った小器官へ特異的に集まる低分子色素を開発し(図1) 、体温調節に重要な褐色脂肪細胞が熱を放出する瞬間を、細胞レベルの解像度で動画として記録することに成功しました(図2)。また、細胞内の熱流束を決定する細胞内熱伝導率の計測も行っています。これらは抗肥満薬やがんの温熱療法の開発など、医療分野への応用が期待されます。

図1 細胞内部での利用を目的に開発している2種類のナノ温度計
図2 褐色脂肪細胞の熱産生を示した蛍光顕微鏡画像(Kriszt, et al. (Sci. Rep., 2017, 7, 1383)の一部を改変して転載。Copyright 2017 Nature Publishing Group)

研究の先に見据えるビジョン

熱収支のしくみに迫り、生物学の新たな扉を拓く

細胞内部では、1度の違いが化学反応の平衡やDNA、タンパク質の構造や機能に大きく影響します。生物が熱を効率的に使うしくみに迫ることは、生物学の新たな扉を拓くと考えています。そこで、温度計測と熱刺激の二本立てで研究を進めています。このうちナノ温度計には、温度以外の環境変化に影響されないこと(特異性)、狙った場所を計測できること(指向性)、高感度の3つが重要ですが、すべて満たすものはまだありません。我々は、3拍子揃ったナノ温度計を開発し、細胞のきわめて小さな領域で放出された熱が、細胞のかたちや運命の決定、組織形成にどう影響を与えているのかを解明し、医療応用を見据えた実践的な研究へ展開することを目指しています。

担当研究者

准教授 鈴木 団(蛋白質研究所)

キーワード

ナノ温度計/1細胞熱力学/筋生理学/蛍光色素/熱シグナル

応用分野

抗肥満薬やがんの温熱療法の開発など/医療の診断・治療法

※本内容は大阪大学 経営企画オフィス制作「大阪大学若手研究者の取組・ビジョン2020」より抜粋したものです。