研究 (Research)
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多剤耐性病原菌による感染症の未然防止 ~細菌薬剤排出ポンプの生理機能の解明~ (Prevention of infections caused by multidrug-resistant pathogens – Physiological functions of bacterial drug efflux pumps)
教授 西野 邦彦(産業科学研究所) NISHINO Kunihiko(SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research))
研究の概要
近年、抗菌薬で治療できない細菌感染症が臨床現場や畜産現場で出現し、世界共通の深刻な問題になっています。その解決のため、我々は細菌ゲノムに潜在する薬剤耐性因子に関し、ポストゲノム手法を用いた網羅的解析を進めてきました。薬剤排出ポンプ(図1)は細胞内から抗菌薬等を排出し、多剤耐性を生み出す原因になっています。解析の結果、細菌ゲノムには驚くほど多く(数10個以上)の薬剤排出ポンプ遺伝子が潜在していることがわかりました。
また、細菌は環境を感知して細胞内情報伝達を行うことにより、これら薬剤排出ポンプ遺伝子を発現させるという巧妙な耐性機構を保持していることを発見しました。このことは、多剤耐性菌の出現が抗菌薬の乱用だけでなく、細菌自身の情報伝達によって担われていることを示しています。多剤耐性菌による感染症を防ぐため、薬剤排出ポンプとその制御因子を標的にした阻害剤の開発を進めています。
研究の先に見据えるビジョン
薬剤耐性菌の早期発見で安心安全の確保を
研究を進めれば進めるほど、薬を効かなくさせてしまう病原菌のたくましい適応力と進化の仕組みに感嘆するばかりです。このような手強い敵と戦うために、細菌の薬剤排出ポンプの阻害剤のスクリーニングを行うとともに、薬剤耐性菌の新しい検出方法を開発する必要があります。薬剤排出ポンプを阻害することのできる薬を開発できれば、細菌の薬剤耐性と病原性を同時に軽減することのできる新規治療法の開発に繋がることが期待できます。我々は、薬剤耐性を軽減するとともに、多剤耐性菌を早期発見することで、ヒトの健康を守り、安全安心な生活を確保することを目指して研究を進めています。
担当研究者
教授 西野 邦彦(産業科学研究所)
キーワード
生体防御機構/多剤耐性病原菌/薬剤排出ポンプ/膜輸送/情報伝達
応用分野
多剤耐性菌検出キット/新規治療薬開発/耐性菌感染症の克服/畜産分野への適用