研究

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超重元素ラザホージウムの水酸化サマリウム共沈挙動の観測

教授 笠松 良崇(理学研究科 化学専攻)

  • 理工情報系
  • 理学研究科・理学部

研究の概要

原子番号の大きな重元素は比較的新しく発見された新元素であり、その性質は未知の部分が多い。そして、重元素には相対論効果が強く働くため、その化学的性質は周期表内で特異的になる可能性があり、興味が持たれている。我々は、これまでに重元素の沈殿に関する性質を調べるための新しい手法の開発を進めてきた。今回、理化学研究所RI ビームファクトリーにて104番元素ラザホージウム(261Rf)を製造し、水酸化サマリウム共沈実験法による化学実験を実現した。その結果、Rf が同族元素と同様に水酸化物沈殿を形成し、アンミン錯体の錯イオンは形成しにくい傾向を示すことを明らかにした。また、条件によっては同族元素とは異なり、擬同族元素であるアクチノイド元素のTh に近い性質を持つという興味深い挙動を観測した。

研究の背景と結果

2022年現在、原子番号1番から118番までの118種の元素が発見され、周期表に記載されている。新しい元素の発見は、より原子番号の大きな元素の核反応による合成と観測によってなされる。このような重元素は、加速器を利用した核反応にて低確率でしか合成できない上に短寿命のため、1原子状態でしか扱うことができず、さらに化学実験を行うためには加速器オンラインの実験装置が必要なためあまり進んでこなかった。化学研究としては、手法が吸着や固液・液液抽出など2相関の分配比を観測する方法に限定されてきた。そのため、非常に限られた性質しか調べられておらず、その性質は大部分が未解明のままである。重元素では軽い元素では影響が小さかった相対論効果の影響が大きくなることで同族元素の周期性から逸脱した化学的性質を示す可能性があり、その理解は非常に重要であり、興味深いといえる。本研究は、このような原子番号の大きな新しい元素の「化学的性質」を調べる研究であり、今回は104番元素、Rf の共沈実験に成功した。
我々はこれまでに水酸化サマリウム共沈挙動からさまざまな元素の水酸化物錯体、アンミン錯体の性質を調べ、さらに高分解能のアルファ線測定(重元素の分析法)にも適用できる手法を開発してきた。今回は、これを単一原子状態の超アクチノイド元素(Rf)に初めて適用し、その性質を調べることに成功した。Rf の合成は、理化学研究所RI ビームファクトリーの大強度重イオン加速器(AVF サイクロトロン)を利用した。その結果、Rf は塩基性溶液中で高い共沈収率を示し、水酸化物沈殿を形成する性質を持つことが分かった。また、水酸化物イオン濃度が高い条件下では、同族元素であるZr やHf は収率が低下するのに対してRf は低下せず、擬同族元素であるTh と同様の化学挙動を示すことがわかった。これは、Rf のイオン半径が同族元素よりも大きくなっていることが原因と考えられ、そこには相対論効果の影響が考えられる。

図1. 261Rf の加速器オンライン共沈実験の概念図
図2. Zr, Hf, Th, Rf の共沈収率

研究の意義と将来展望

本研究により確立された新しい溶液化学実験手法、自動迅速化学分析装置は、他の重元素や様々な化学反応系への適用が期待できる。それによりその元素の化学的性質をより詳細に知ることができ、相対論効果の理解が深まることも期待できる。軽い元素にも小さいながらも作用する相対論効果の理解が進むことは、周期表上のあらゆる元素の本質的理解につながる。ひとつの物質の新しい性質の発見が大きく社会を変えることも多い現代の物質社会において、すべての元素の性質のより完全な理解は非常に重要な課題といえる。

担当研究者

教授 笠松 良崇(理学研究科 化学専攻)

キーワード

超重元素/Rf/共沈/沈殿/水酸化サマリウム

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。