研究

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光化学反応と光圧による新規メゾスコピック光応答の実現

准教授 伊都 将司、教授 宮坂 博(基礎工学研究科 物質創成専攻)

  • 理工情報系
  • 基礎工学研究科・基礎工学部

研究の概要

レーザーの特徴(単色性、高いコヒーレンス、高い尖頭出力、超短時間パルス)を活かし、光化学反応と光圧を用いた新規メゾスコピック光応答の探索、その機構解明と新規光応答系の開拓を目的とした研究を行っている。一例としては、光圧(光トラッピング)による光重合の微小空間制御と極微3D 造形技術への展開、光異性化(フォトクロミック)反応による光圧制御に基づく微小機械運動系の実現、さらに光共鳴の結果生ずる強い光圧を駆使したプラズモニックナノ粒子の選択的微小空間パターン形成などがあげられる。

研究の背景と結果

光子と物質の相互作用は、相互のエネルギー、運動量変化を伴う。特に光子の運動量変化の結果物質に作用する光圧を用いることで、従来の分子光化学を超えた新たな光操作が実現できる。従来、光操作はμ m サイズの固体微粒子操作に用いられることが多かったが、我々は、高分子の光重合反応の中間体に作用させ,光重合の微小空間制御へと研究を展開した。一般に室温の液相で光で操作可能な粒子サイズは10 nm 程度が下限であり、低分子の光操作は困難である.しかし連鎖成長した高分子鎖には光圧が働くことに着目し、光重合反応系に光圧を作用させることで成長中の高分子鎖を集めるとともに、成長鎖間で進行する停止反応を局所的に効率よく進行させることで周囲への余剰成長を抑制し重合反応の空間選択性を著しく向上させることに成功した(図1)。
これは、極微3D 造形技術への応用展開のみならず、光圧による化学反応制御の先駆的研究として基礎的にも大きな意義を持つ。また、局在プラズモン共鳴を示す粒子に作用する光圧が粒子形状やサイズに強く依存することを用いて、球状やロッド状の粒子が混在する銀ナノコロイドから,特定の銀ナノロッドのみを選択的に輸送し空間的に配列させることで選別粒子のみから成る微小構造が形成できることも示した(補足図)。
光操作技術を用いた微小空間における物質の位置制御は、モーター蛋白に代表される微小機械系の力学特性評価などにも用いられているが、電気配線不要な微小アクチュエータ構築の観点からも重要な課題である。我々は、無色の開環体と可視域に吸収を持つ閉環体との間で UV および視光照射によって可逆的異性化反応を示すジアリールエテンを含む高分子微粒子を光捕捉し、光異性化反応により光圧(主に光吸収に起因する吸収力)を変調することで光反応に同期した微粒子のミクロ往復運動(数十から数百nm)を実現した(図2)。
またT型フォトクロミック分子を用いた粒子においても同様の往復運動を実証し、光化学反応を用いた動作原理によるレシプロ型微小空間アクチェーターへの展開が可能であることを示した。

図1
図2
補足図

研究の意義と将来展望

物質科学の大きな目的は、機能性新物質の創出と機構解明であろう。近年、マテリアルインフォマティクスや AI の進歩により、目的とする物性や機能を備えた材料の予測・作製が短時間で達成可能となりつつあり、機能物質開発にパラダイムシフトが起ころうとしている。今後は従来の知見からは予測できない新規物性の発見・発現が物質科学において重要になると考えられる。このような背景の下で非線形光化学反応、ナノプロセッシング、極微光メカノデバイスなどへの展開を視野に、分子の光反応過程の解明を基本に、新規メゾスコピック光応答の探索を進めている。

担当研究者

准教授 伊都 将司、教授 宮坂 博(基礎工学研究科 物質創成専攻)

キーワード

ナノテクノロジー/光化学/微小オプトメカノデバイス/ナノプロセッシング

応用分野

スマートデバイス/医療・ヘルスケア

参考URL

http://www.chem.es.osaka-u.ac.jp/laser/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。