研究 (Research)

最終更新日:

有害有機化合物を高効率で分解する環境触媒の創成 (Development of environmental catalysts for effective decomposition of harmful organic compounds)

助教 布谷 直義(工学研究科 応用化学専攻) NUNOTANI Naoyoshi(Graduate School of Engineering)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 工学研究科・工学部 (Graduate School of Engineering, School of Engineering)

English Information

研究の概要

大気汚染や水質汚濁の原因となる有機化合物(トルエンを始めとした揮発性有機化合物(VOCs)やフェノール類等)を、接触させるだけで無害な二酸化炭素と水にまで酸化分解できる新規な環境触媒の創成を行っている。これらの触媒においては、格子内から酸素を供給できる助触媒材料を、固体化学の観点から新たに設計・創成することにより、酸化反応を促進させている。本研究で得られた触媒は、気相中のトルエンを100℃で完全燃焼(従来触媒では170℃の高温が必要)でき、また、液相中のフェノールを常圧大気開放下80℃で完全浄化(従来触媒では10~50気圧、140~160℃の高圧高温が必要)できることを明らかにしている。

研究の背景と結果

数ある有害有機化合物浄化法の中でも触媒分解法は、触媒と接触させるだけで有害有機化合物を二酸化炭素と水にまで酸化分解できることから、メインテナンス性等の面で優れている。しかし、従来の触媒(Pt/Al2O3等)では高圧や高温条件(気相中のトルエン分解:170℃、液相中のフェノール分解:10~50気圧・140~170℃)が必要であった。
高活性を得るための一般的な手法は、主触媒(白金等)の分散性や表面積を制御することであるが、本研究においては、気相もしくは液相中の酸素を酸化物イオンとして格子内に取り込み、主触媒へと供給できる材料を助触媒として用いることが重要との考えのもと、新規触媒を創成してきている(図1)。助触媒材料としては、自動車排ガス浄化触媒の助触媒であるセリウム-ジルコニウム複合酸化物(CeO2-ZrO2)が知られているが、これは排ガスのような高温(800℃前後)での動作を目的としたものであるため、低温で用いるためには構成を見直さなければならなかった。そこで、従来の触媒分野においてほとんど考慮されていなかった固体化学の観点を取り入れ、CeO2-ZrO2格子内に酸化ニッケル(NiO)を導入することにより酸化物イオン欠陥を導入し、酸化物イオンを移動させやすくしたところ、酸素貯蔵放出特性が飛躍的に向上することを見出した。これを助触媒とし、主触媒(白金)および担体(Al2O3)と組み合わせた触媒(Pt/CeO2-ZrO2-NiO/Al2O3)は、Pt/CeO2-ZrO2/Al2O3と比較して高い活性を示し、トルエンを100℃で完全燃焼することがわかった(図2)。なお、従来触媒(トルエンを170℃で完全燃焼)と比較しても大きく活性が向上していることもわかる。
さらに、液相中のフェノール分解のため、CeO2-ZrO2に価数変化しやすいスズイオン(Sn4+/2+)を導入した CeO2-ZrO2-SnO2を助触媒として用いたところ、常圧大気開放下80℃でフェノールを完全浄化できることも明らかにしている(従来触媒では10~50気圧、140~170℃必要)。

図1 助触媒から主触媒への酸素供給を利用した有害有機化合物分解反応の
模式図
図2 Pt/CeO2-ZrO2-NiO/Al2O3触媒および Pt/CeO2-ZrO2/Al2O3触媒の
トルエン燃焼活性

研究の意義と将来展望

VOCs やフェノール類等の有機化合物は、いずれも有機溶剤や樹脂等の原料として現在の生活に欠かせない物質であるが、人体や環境に有害であることから、排ガスや排水中から除去しなければならない。本研究で得られた触媒は、従来触媒と比較して飛躍的に活性が向上していることから、簡素で省エネルギー、かつメインテナンスフリーな環境浄化装置の実現が期待できる。今後も常に新しい発想のもとで新規触媒開発を行い、大気や河川水の環境保全に貢献していくことを目指している。

担当研究者

助教 布谷 直義(工学研究科 応用化学専攻)

キーワード

環境触媒/揮発性有機化合物/希土類

応用分野

排ガス処理/排水処理

参考URL

https://www-chem.eng.osaka-u.ac.jp/~imaken/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。