研究

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情報鮮度を考慮した粗密度モバイルアドホック網の設計法

准教授 井上 文彰(工学研究科 電気電子情報通信工学専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

大きな自然災害の発生直後には、無線基地局を始めとする通信インフラが利用不可能となることが懸念されます。このような状況下においても Internet of Things (IoT) に基づくモニタリングシステムの動作を継続させることで、迅速な情報収集や安全性の確保に寄与することが期待されます。通信インフラに依存せずに遠隔通信を実現する手法 と し て、従 来 か ら Delay/Disruption/Disconnection Tolerant Networking (DTN) 技術が研究されてきましたが、これらの研究はモニタリングシステムへの利用を想定したものではなく、特に、センシングデータの送信頻度などの肝心な設計項目に関する検討はこれまでなされていませんでした。今回の研究では、DTN 技術をモニタリングシステムに応用する際に重要となる「情報鮮度」の観点からシステムを数理的に解析する手法を確立しました。

研究の背景と結果

近年、Internet of Things (IoT) という言葉に代表されるように、センシング機能を有する多数のデバイスから収集した情報を、日々の暮らしの安全や利便性の向上に活用する機運が高まっています。このような機能を都市全体に組み込むという構想はスマートシティと呼ばれ、近い将来に私たちの生活を変革させることが期待されています。
スマートシティの実現に向けては、センシングデバイスの小型化や高機能化、情報集約のための通信インフラの整備、ならびに収集された情報を分析するための機械学習技術など、さまざまな分野での取り組みがなされています。これらの検討はいずれも、暮らしの「平常時」における都市機能を拡充させることを目的としていますが、一方で、自然災害の発生直後などの「非常時」において、部分的であってもこのようなセンシングを活用した都市機能が保たれることが望ましいです。特に、非常時のシナリオとして、無線基地局などの通信インフラが利用不可能になる事態を想定することが重要であり、そのような状況下で活躍するのが DTN と呼ばれる技術です。DTN とは、Delay/Disruption/Disconnection Tolerant Networking ( 耐 遅 延・耐 途絶・耐切断ネットワーキング) の略であり、通信インフラが利用できない状況下での遠隔通信を実現する技術として長らく研究されてきました。
DTN では「バケツリレー方式」で多数の端末を経由して情報を宛先まで届ける手法を採用し、送信データの複製をあたかも感染症のように複数の端末へ伝搬させていくことで所望の宛先までデータを到達させます。
DTNに関する従来の研究は主に、送信者から受信者に単一のメッセージを届けることを前提としていましたが、前述のスマートシティの文脈では、センシングデータを何らかの間隔に従って定期的に送り出すことが必要であり、このとき、宛先端末が持つ情報の「鮮度」を高く保つことが重要となります。今回の私たちの研究は、無限サーバ待ち行列モデルにおける新たな数理的結果を導いた上で、これをマルコフ解析と組み合わせることで、DTN システムにおける情報鮮度の数理的解析法を世界で初めて与えたものです。

DTN モニタリングシステム
情報取得(サンプリング)方式

研究の意義と将来展望

現在、世界的にも IoT を活用した都市機能の拡充に関する研究が多様な観点からなされていますが、自然災害の発生直後などの非常時における継続性については十分に注目されていませんでした。また、非常時における通信手法として DTN 技術が古くから研究されてきましたが、IoT の主要なアプリケーションであるモニタリングへの利用は検討されておらず、ほとんど手つかずの領域になっていました。今回の研究を足がかりにして、非常時における IoT システムの継続性に関する研究が今後一層進められることが期待されます。

担当研究者

准教授 井上 文彰(工学研究科 電気電子情報通信工学専攻)

キーワード

災害時ネットワーキング/IoT/Delay/Disruption/Disconnection Tolerant Networking (DTN)/情報鮮度

応用分野

災害時ネットワーキング/IoT

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。