研究 (Research)
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高結晶性ランダム積層グラフェン集合体の合成 (Synthesis of high-crystallinity randomly stacked graphene macrostructures)
博士後期課程 許 梓釗、助教 井ノ上 泰輝、教授 小林 慶裕(工学研究科 物理学系専攻) XU Zizhao , INOUE Taiki , KOBAYASHI Yoshihiro(Graduate School of Engineering)
研究の概要
本研究では、高結晶性かつランダム積層したグラフェン集合体をマクロスケールで合成する手法を開発した。凍結乾燥法で形成したスポンジ状の酸化グラフェン(GO)集合体を原料として、反応性ガスにエタノールを用いて1500–1800 ℃で超高温処理を行うことにより、高い結晶性とランダム積層率を併せ持つグラフェン集合体の作製に成功した。また、セルロースナノファイバー(CNF)を添加することでランダム積層率の更なる向上を達成した。
研究の背景と結果
グラフェンは炭素原子の6員環構造から成る原子1層分の厚みのナノカーボン材料である。特異な電子構造に起因して、グラフェンは高いキャリア移動度などの優れた電子・光学・熱・機械特性を持ち、様々な応用が期待されている。一方で、グラフェンは極めて薄く小さいため、マクロスケールでの応用に向けてはグラフェン集合体を作製する必要がある。ここで、グラフェンを多層化した際には、熱力学的に安定なAB 積層構造が形成され、強いグラフェン層間相互作用により、その電子構造が単層グラフェンの場合から変質し、グラファイトに近づいてしまう。一方、グラフェン層間の角度がランダムに積層した構造では層間相互作用が弱い。グラフェンの性質を保ちながらマクロスケールでの応用を可能とするためには、高結晶性かつ高ランダム積層率のグラフェン集合体を作製することが求められる。
本研究では、様々な処理により酸化グラフェン(GO)からグラフェン集合体サンプルを作製し、ラマン分光法等によりその結晶性およびランダム積層率を評価した。不活性ガスであるアルゴン中で超高温処理を行った場合と比べて、反応性ガスとしてエタノールを用いて超高温処理を行った場合は、得られるグラフェン集合体の結晶性が向上するとともにランダム積層率が大幅に増大することが分かった。
さらに、元の GO が密な凝集体である場合と比べて、凍結乾燥法により形成したスポンジ状の集合体である場合は、超高温処理後にグラフェン集合体の表面のみならず内部まで高い結晶性とランダム積層率を持つことが見いだされた。GO の構造修復において、エタノールに由来する炭素原子の供給と欠陥エッチングの効果が内部まで到達することにより、層間の配向変化を防ぎながら効率的に構造修復が行われると考えられる。
研究の意義と将来展望
グラフェンは様々な優れた性質を持つナノカーボン材料であるが、その薄さ・小ささのため応用範囲が限られている。マクロスケールの応用のためにグラフェン集合体が必要となるが、単純な手法で集合体を作製するとグラファイトに近い構造となってしまい、グラフェンの優れた性質が失われる。ランダム積層率を高めた集合体とすることでグラフェン層間相互作用による物性低下を防ぎ、優れたグラフェンの性質をマクロスケールで用いることが可能となる。本研究で得られたグラフェンスポンジ構造は、ウェアラブルひずみセンサーや電池用電極材料などへの応用が期待される。
担当研究者
博士後期課程 許 梓釗、助教 井ノ上 泰輝、教授 小林 慶裕(工学研究科 物理学系専攻)
キーワード
ナノカーボン材料/還元型酸化グラフェン/層間相互作用
応用分野
スマートデバイス/エネルギー貯蔵