研究

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環境システミックリスクガバナンス

教授 東海 明宏、特任助教 伊藤 理彩(工学研究科 環境エネルギー工学専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

サプライチェインの上流に位置する産業セクター群から、他産業へ供給される原材料による健康・環境・社会リスクの管理が懸念されている。環境容量理論に基づけば、環境への排出を封じ込めることは事実上不可能であることを前提としたリスク評価・管理を内蔵した産業セクターは、サプライチェインの後段の産業セクター群に対してリスク管理をリードする役割が期待されている。効果的なリスク管理の推進には、網の目のように関係しあう産業間での原材料のやりとりを反映させる必要がある。産業連関分析と毒性フットプリント指標を組み合わせることで、日本における化学物質排出量とヒト健康・環境リスクとを関連付けることで化学物質排出によるヒト健康リスクの増減が何によって引き起こされたかという定量的な知見を提供することができ、関係者間で今後の化学物質に代表される原材料由来のリスク対策をデータに基づき明確化できる。

研究の背景と結果

化学物質排出把握促進法の下で、企業の生産活動で使用する化学物質の関する排出移動量のデータが開示され、もって同業他社間同士の相互確認を通じて生産と環境管理水準の自律的な改善が進行を通じて、同法施行以降着実に環境への化学物質排出量の削減が実現してきたが、それがいかなる理由によるものかは必ずしも明らかにされていなかった。
企業の自主的管理活動の推進によって有害大気汚染物質、環境管理上懸念された物質の排出量低減が進行してきたが、経済活動の中で、何が寄与した結果であることが分かれば、今後の更なる推進が可能となる。この寄与因子としては、人口、需要構造、生産構造、排出抑制技術の普及、等であり、これらの寄与率を産業連関分析によって明確化することで、自主的管理の成果なのか、それ以外の社会経済的要因なのか、について見通しをうることができる。
排出量は、上記の要因に起因する増加の作用と削減の作用とが総合的に相殺された結果として表出する。毒性フットプリントという指標でみると、削減要因としては排出段階での管理水準の向上、消費段階での削減が卓越する一方で、この削減量を相殺するほどの生産量の増加が効いていた。
このように、巨視的な観点での分析を通じて、自出的管理活動の寄与を推定することができ、今後の規制の合理化等に向けた企業の自主的管理のインセンティブの向上にむけた制度に対する示唆が得られた。健康・環境・社会リスクの視点からは、2000年から2015年にかけての産業界による化学物質の排出削減によって、要因内訳別の毒性フットプリントによる寄与が明確となり、この期間において、毒性フットプリントが半減したが、消費と排出工程の増分寄与が高いことが示された。これが、生産工程からの排出起源由来毒性ポテンシャル増分を相殺していた。このように、より健康・環境リスクを直接反映した政策評価が可能となった。

Accumulated changes in ToxF by decomposition factors (%)
Contributions of driving factors to ToxF changes between 2001 and
2015 (kt)

研究の意義と将来展望

サプライチェインの上流に位置する化学産業と、それ以降に位置する部品製造産業、組み立て産業との原材料のやりとりを介した、生産、消費、廃棄に関わるデータを統合して、産業連関分析と毒性フットプリントによるリスク評価を実行することで、SDGs における責任ある生産と消費に貢献するレスポンシブル・ケアに資する知見が得られ、今後の化学物質に代表される原材料由来のリスクガバナンスにむけた、未来戦略の議論をすることが可能となる。

担当研究者

教授 東海 明宏、特任助教 伊藤 理彩(工学研究科 環境エネルギー工学専攻)

キーワード

産業連関分析/構造分解分析/毒性フットプリント

応用分野

環境リスクガバナンス/持続可能な生産と消費

参考URL

https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/other/kasseika/daigakurenkei.html
https://prtr.unece.org/
https://www.oecd.org/chemicalsafety/pollutant-release-transfer-register/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。