研究

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次世代二次電池に向けた新電解液材料の設計

教授 山田 裕貴(産業科学研究所 エネルギー・環境材料研究分野)

  • 理工情報系
  • 産業科学研究所

研究の概要

リチウムイオン電池のエネルギー密度を大きく超える次世代二次電池として、リチウム金属を負極とした様々な二次電池概念(リチウム金属二次電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池など)が注目されている。しかし、リチウム金属の高い反応性(強還元性)が引き起こす電解液の分解により、充放電効率が低いことが問題となっている。
本研究では、電解液設計によりリチウム金属の反応性を制御する手法を新たに見いだした。本概念に基づき、リチウム金属の反応性(還元力)を低下させることができる複数の電解液材料を提案し、99% 以上の充放電効率を達成した。

研究の背景と結果

リチウムイオン電池は、スマートフォンやノートパソコン、家庭用蓄電池、電気自動車等に採用され、人々の生活に欠かせないデバイスとなっている。しかし、リチウムイオン電池のエネルギー密度(単位重量あるいは単位体積あたりの蓄積エネルギー)は、原理的な限界に達しつつあり、飛躍的な高エネルギー密度化に向けて様々な次世代二次電池概念の研究が行われている。その中でも研究開発の中心課題となっているのがリチウム金属負極である。リチウム金属の析出溶解反応(Li++ e ⇌ Li)を利用するリチウム金属負極の理論容量は3,860 mAh/gであり、既存のリチウムイオン電池用負極に用いられている黒鉛(372 mAh/g)の約10倍である。
しかし、リチウム金属の高い反応性(強還元力)に起因する電解液の分解反応による充放電効率低下が実用化に向けた主な課題となっている。これまで、充放電効率が電解液組成に強く依存することが明らかとなっていたが、電解液の分解によってリチウム金属表面に形成される不働態被膜の組成の違いによるものと考えられ、定量的な関係性は不明であった。
本研究では、リチウム金属の反応電位(反応性、還元力)が電解液組成によって大きく異なり、反応電位と充放電効率が相関していることを見いだした。反応電位が高い(反応性が低い、還元力が低い)電解液を使用することで、リチウム金属の充放電効率が上昇する傾向があることが分かった。加えて、リチウム金属の反応電位と電解液の溶液構造との関係を調べた結果、電解液中のリチウムイオンと対アニオンのイオン会合状態と反応電位が相関していることも明らかにした。
つまり、強くイオン会合するような電解液設計を行うことで、リチウム金属負極の反応電位は上昇し、それに伴って充放電効率も上昇する。このような相関性に着目した電解液設計により、99% 以上の充放電効率を示す電解液を複数提示した。

図1 リチウム金属二次電池
図2 リチウム金属の反応電位と充放電効率の相関性

研究の意義と将来展望

本研究は、リチウム金属を負極として採用する次世代二次電池用電解液設計の明確な指針を提示するものであり、その実用化に向けた研究開発を大きく加速させる。リチウムイオン電池の負極を黒鉛からリチウム金属に置き換えることで、電極重量基準の理論エネルギー密度は約1.4倍になる。更には、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池など、高容量正極反応の実用化開発が進展すると、リチウムイオン電池の数倍のエネルギー密度を達成可能である。このような高エネルギー密度の次世代二次電池は、電気自動車用バッテリーとして有望である。ガソリン自動車並みの航続距離を実現することができ、電気自動車の大規模普及に大きく貢献する。

担当研究者

教授 山田 裕貴(産業科学研究所 エネルギー・環境材料研究分野)

キーワード

二次電池/リチウム金属/電解液/高エネルギー密度

応用分野

電気自動車/エネルギー貯蔵/スマートデバイス

参考URL

https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/eem/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。