研究 (Research)

最終更新日:

高効率テラヘルツキラルセンシングに向けた動的メタ表面の開発 (Development of dynamic metasurfaces for highly-efficient terahertz chiral sensing )

准教授 中田 陽介(基礎工学研究科 システム創成専攻) NAKATA Yousuke(Graduate School of Engineering Science)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 基礎工学研究科・基礎工学部 (Graduate School of Engineering Science, School of Engineering Science)

English Information

研究の概要

テラヘルツ領域には巨大分子や生体分子の振動準位が存在するため、センシングの観点から注目を集めている。特に、鏡写しにした構造が元の構造と重ならないキラル分子を検出するには、テラヘルツ波の電場振動方向を表す偏光が右回り・左回りの両方の場合に対する応答を調べる必要がある。このため、テラヘルツ円偏光の回転方向を高効率に切り替え可能な技術が必要とされている。本研究では入射直線テラヘルツ偏光を高効率に円偏光に変換するとともに、その円偏光の回転方向を動的に逆転させることが可能なデバイスを実現した。本デバイスは金属パターンの変形により所望の動作を可能とする(図1)。金属パターンの変形は温度によって抵抗が変化する二酸化バナジウムを利用して実現される(図2a)。本デバイスを用い高効率なテラヘルツ円偏光の切り替え動作を実証した(図2b)。

図1: デバイスの動作原理。直線偏光のテラヘルツ電磁波が入射する。金属パター
ンが変化することで反射テラヘルツ波の円偏光の回転方向が反転する。
図 2: 実デバイスと特性 :(a)メタ表面の顕微鏡写真。(b)直線偏光から円偏光
へのパワー変換効率。効率のプラス・マイナス符号は右・左の円偏光の違いを表
している。灰色に色づけられた領域は単層透過型デバイスの原理限界を超えた領域。

研究の背景と結果

テラヘルツ領域において、高感度センシング、および、高速通信を実現するための動的デバイスの開発が必要とされている。しかしながら、従来の半導体デバイスや、液晶素子といった動的デバイスは様々な制限からテラヘルツ領域でそのまま用いることはできない。また、テラヘルツ波は光と比べ非常に長い波長をもつため、デバイスが分厚くなる問題が存在している。こうした問題を解決するためにメタ表面と呼ばれる人工表面に注目が集まる。多くのメタ表面では金属構造が利用され、サブ波長厚みであるにもかかわらず非常に大きな応答を実現することが可能になる。さらにこうしたメタ表面に外部刺激によって特性を変えられる材料を導入することにより切替動作を実現しうる。本研究ではテラヘルツ円偏光を高効率に切り替え可能な動的メタ表面を実現し、その高効率特性を実証した。
図1に本デバイスの動作の様子を示す。図1左の構造は底面に金属が置かれた誘電体の上に縦横で長さの違う十字型金属が並べられている。十字型の異方性により、入射直線偏光を反射円偏光に変換することが可能になる。本構造に外部刺激を加えると金属パターンが変形し横方向にショートしたようになる。この変形により反射円偏光の回転方向が逆転する。こうしたパターンの変形を実現するために、金属十字型の間に二酸化バナジウム(VO2)が導入される(図2a)。二酸化バナジウムは温度を上げることによって、絶縁体から金属状態へ変化するため、金属パターンの変形が実現できる。本デバイスに対して、反射特性を評価したところ、図2b に示すとおり、単層透過型デバイスの効率限界を上回る変換効率が両状態に対して実現されていることがわかった。すなわち、高効率性を保ちながらテラヘルツ円偏光の回転方向を反転させることが可能になった。

研究の意義と将来展望

本デバイスは反射型動作をするため、従来の透過型デバイスでは難しかった高い変換効率を保った動作を達成できる。実際、図2b に示すように、二酸化バナジウムが絶縁体(OFF)・金属(ON)のどちらの状況でも、単層透過型デバイスの理論限界を超えた80% 以上のパワー変換効率を実現することに成功した。本デバイスは高効率テラヘルツカイラルセンシングへの展開が期待されるとともに、偏光自由度を活用した通信へも応用可能性がある。

担当研究者

准教授 中田 陽介(基礎工学研究科 システム創成専攻)

キーワード

テラヘルツ技術/メタマテリアル/メタ表面/二酸化バナジウム

応用分野

センシング

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。