研究

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余剰汚泥をバイオ触媒として活用したバイオプラスチック生産システムの開発

准教授 井上 大介(工学研究科 環境エネルギー工学専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

下排水処理の汎用技術である活性汚泥法では、処理に伴い発生する余剰汚泥の資源転換促進が重要な課題である。現在はメタンやコンポスト等への転換が進められているが、いずれの資源転換技術でも、製造される資源の付加価値は高いものとはいえず、また、多種多様な微生物で構成される余剰汚泥の特性が十分に活かされていない。そこで我々は、下水処理場において、余剰汚泥を “ バイオ触媒 ” として活用し、産業排水等を原料としてバイオプラスチック原料であるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を生産することを構想し、余剰汚泥から PHA 蓄積微生物を迅速集積する技術や、汚泥からの PHA 回収技術など、一連の基盤技術の確立を進めている。

研究の背景と結果

多種多様な微生物で構成される余剰汚泥では、多様な有機物を基質として PHA を合成することが可能であるが、PHA 合成能がない、あるいは低い微生物も共存しているため、全体としての PHA 蓄積能は必ずしも高くない。そのため、余剰汚泥を PHA 生産触媒として活用するためには、PHA 合成能に優れる微生物を選択的に優占化(集積)させるステップが不可欠となる。
しかし、現在広く用いられている PHA 蓄積微生物集積法は数ヶ月もの長期間を要するため、日々発生する余剰汚泥の持続的な有効利用の観点では活用できない。そこで我々は、従来法で活用されてきた feast-famine 法による生態学的選択と、PHAを蓄積し比重が重くなった細胞を沈降分離する物理的選択を組み合わせた Aerobic Dynamic Discharge(ADD)法を用い、下水処理場で余剰汚泥を貯留する数日以内に PHA 蓄積微生物を高度集積する手法の確立に取り組んだ。各種条件の最適化により、酢酸(代表的な脂肪酸として使用)を基質として用いた場合、わずか2日間の集積により、乾燥重量あたり約70% もの PHA を蓄積する高効率 PHA 生産触媒に転換させることに成功した。
また、この PHA 生産触媒は、酢酸だけでなく、他の脂肪酸やアルコールからも PHA を効率的に生産できることが確認されている。さらに、グルコースを基質とした場合でも、集積条件の改良により、迅速な高効率 PHA 生産触媒の構築が可能であることを見出している。他方、PHA 生産システムでは、汚泥中に蓄積させたPHA を、実利用の観点で許容される物性を維持し、高効率に回収することが必要となる。
そこで、PHA 回収についても検討し、高収率・高純度かつ低環境負荷に汚泥中の PHA を回収できる手法について知見を得ている。

下水処理場を PHA 生産のバイオリファイナリーに転換する構想
余剰汚泥をバイオ触媒として活用した PHA 生産のフロー
余剰汚泥からの PHA 蓄積微生物の迅速集積に用いる
Aerobic dynamic discharge 法の原理

研究の意義と将来展望

本研究は、現状では公衆衛生・水環境保全・持続的水利用に資する都市の静脈インフラの役割をもつ下水処理場に化成品として価値のある PHA を生産するバイオリファイナリー(=動脈)の役割を付与し、循環型社会の中核をなす都市インフラに進化させることを目標としており、本構想の実現は脱炭素社会に対して大いに貢献するものと考えている。また、生産される PHA は、海洋生分解性を有し、多用途で石油系プラスチックに代替し得るバイオプラスチック原料であることから、本構想システムによる安価・低エネルギー投入による PHA 生産は環境保全の観点でも重要な意義を有する。

担当研究者

准教授 井上 大介(工学研究科 環境エネルギー工学専攻)

キーワード

余剰汚泥/バイオ触媒/バイオプラスチック/ポリヒドロキシアルカン酸

応用分野

プラスチック/下排水処理/サーキュラーエコノミー

参考URL

http://www.see.eng.osaka-u.ac.jp/wb/ikelab/
https://see.eng.osaka-u.ac.jp/topics/staff/3724.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。