研究

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下肢閉塞性動脈硬化症に対する細胞再生治療の有効性改善のための新規投与手法の開発

助教 三宅 啓介、教授 宮川 繁(医学系研究科 心臓血管外科学)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)

研究の概要

閉塞性動脈硬化症は、虚血の進行・慢性炎症に伴う下肢の痛み、潰瘍・壊疽形成、最終的には下肢切断に繋がる深刻な疾患であり、患者数は世界中で増加傾向にある。標準治療は血行再建であるが、近年、標準治療では治療困難な症例が増加しており、新たな治療法が求められており、細胞治療・遺伝子治療といった再生医療にその役割が求められてきた。一方で、高度の虚血・炎症性疾患においては、虚血筋肉内に投与した物質が速やかに消失してしまうことにより再生治療効果が得られず、これまでの様々な再生治療はいずれも十分な治療効果を示すことができず、現行の治療ガイドラインにおいて再生治療は非推奨の治療となっている。本研究では、投与する細胞同士を細胞外マトリックスで連結する手法を開発することで、細胞を集塊を形成した状態で筋肉内へ投与することが可能となった。細胞集塊は虚血炎症環境においても優れた生着率を示すことにより、組織修復効果を示すことに成功した。

研究の背景と結果

閉塞性動脈硬化症における再生治療は、高度の虚血炎症環境が投与物質の生着率を低減することにより有効性が乏しいという問題点を抱えている。細胞シート技術は、細胞の生着率を高めることが知られており、虚血性心筋症において有効な治療法となることを当教室では証明してきた。本研究では、この細胞シート技術を応用することで、閉塞性動脈硬化症の高度虚血・炎症環境においても細胞生着率を高めうる新規手法を開発することを目的とする。本研究では、マウスより骨格筋芽細胞を採取し、細胞シート技術を用いて筋芽細胞集塊を作成した。
この細胞集塊を、マウスの慢性高度下肢虚血モデルに対して筋肉内投与を実施し、コントロール群として生理食塩水の投与および筋芽細胞単体投与と比較することで再生治療効果を検証した。筋芽細胞の細胞集塊は、ラミニン・フィブロネクチン・ヴィトロネクチンといった様々な細胞外マトリックスを有し、細胞単体投与と比較して投与後7日目、28日目のいずれにおいても有意に優れた細胞生着率を示した。さらに、細胞集塊投与群のみがコントロール群と比較して有意に優れた下肢血流改善効果を示すとともに、組織レベルにおいても有意な血管新生効果および骨格筋再生効果を示した。さらに、炎症環境に関しても、細胞集塊投与のみが炎症状態の変化をもたらした。細胞集塊投与によって、速やかにマクロファージ数が上昇し、その後マクロファージのフェノタイプが抗炎症性に変化することで組織修復を促す結果となった。これらの結果と一致して、サイトカインの評価を実施すると、細胞集塊投与群のみで、血管新生・骨格筋再生・炎症制御に関連するサイトカインの上昇効果を認めた。
本研究によって、下肢慢性虚血・炎症環境に対する細胞集塊投与の血管新生効果・骨格筋新生効果・炎症制御効果が明らかとなった。

研究の意義と将来展望

本研究により、細胞を細胞外マトリックスを含んだ集塊として投与する手法は、細胞の生着率を改善し細胞治療のポテンシャルを発揮することで、炎症を制御し組織修復を促進しうることが明らかとなった。現状細胞再生治療が十分に効果を示すことができていない、様々な炎症性疾患・虚血性疾患に対しても、本手法を用いることにより再生治療は効果をもたらしうる可能性が考えられる。

担当研究者

助教 三宅 啓介、教授 宮川 繁(医学系研究科 心臓血管外科学)

キーワード

細胞治療/末梢動脈疾患/血管新生/慢性炎症

応用分野

医療/再生医療

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。