研究

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π共役高分子棒状凝集体の液中形成に基づく超高配向薄膜コーティング

教授 尾﨑 雅則(工学研究科 電気電子情報通信工学専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

溶液を一軸方向へ掃引し塗布製膜するバーコート法を用いて、π共役高分子の薄膜を作製し自発的かつ一様に分子配向することを見出した。特に、溶液中において棒状の凝集体を形成するドナー・アクセプタ型π共役高分子 PDPP-DTT は、液中凝集体の異方的構造に由来した液晶性により、二次元配向パラメータS が0.9となる極めて高い配向性を示した。また、分子配向方向は溶液濃度に依存し、高分子主鎖が製膜方向に対して選択的に平行もしくは垂直となる。このような現象について検討し、PDPP-DTT の液中凝集現象を考慮した分子配向メカニズムを提案した。

研究の背景と結果

π共役高分子は可溶性を有し、溶液コーティング法によって製膜可能な有機半導体材料であり、主鎖方向に優れたキャリア輸送特性を示す。
高性能な電子デバイスを作製するためには、製膜プロセスにおいて分子配向を制御することが重要である。我々は低速のバーコートプロセスにおけるπ共役高分子の分子配向について検討し、凝集性を示すドナー・アクセプタ(D–A)型共役高分子 PDPP-DTTについて着目した。
バーコート法における製膜速度は、PDPP-DTT の分子配向状態を決定する重要なパラメータであり、特に20μm/s の超低速製膜では、配向性を数値的に表す二次元配向パラメータS が実質的に最大の値となる。
また、その配向方向は溶液濃度が2g/L で顕著に変化し、1g/L と3g/Lの条件においては、高分子主鎖方向が製膜方向に対しそれぞれ平行と垂直になる。このような優れた分子配向を実現する要因の一つとしては、PDPP-DTT が溶液中で棒状の液中凝集体を形成し、かつ液晶性が発現するためである。さらに、薄膜形成過程で溶液メニスカスにおける溶液流の考慮も必要でる。例えば、溶液濃度が1g/L の場合は、PDPP-DTT の棒状凝集体のサイズは比較的小さく、延伸流によって平行配向し薄膜の形成に寄与する。一方、溶液濃度が3g/L の場合は、棒状凝集体のサイズは大きくなり、基板界面付近に沈降し、せん断流により垂直方向に回転するとともに基板上を転がりながら沈殿する。したがって製膜方向に対し高分子主鎖方向が垂直となる。これらの分子配向メカニズムにより、分子の配向方向が選択可能な PDPP-DTT の分子配向薄膜が形成できる。このような優れた分子配向性は薄膜中のキャリア輸送にも影響を与え、π共役高分子の主鎖に沿ったキャリア輸送において高い正孔移動度を示し、明確な電気的異方性が現れた。

研究の意義と将来展望

棒状の液中凝集体を形成する PDPP-DTTについては、バーコート法によって非常に高い配向度を示す分子配向薄膜が作製できる。特に20μm/s 以下の低速製膜においては、高分子主鎖がほぼ完全に配向した状態となるだけでなく、配向方向が溶液濃度に依存して一様に変化する。
この現象は液中凝集体のサイズに依存して生じており、製膜過程における液中凝集体と溶液流の相互作用を考慮することが重要である。このような液中凝集体の形成に基づく分子配向は普遍性を有する可能性があり、他のπ共役高分子への適応が期待される。

担当研究者

教授 尾﨑 雅則(工学研究科 電気電子情報通信工学専攻)

キーワード

π共役高分子/有機半導体/分子配向/プリンテッドエレクトロニクス

応用分野

フレキシブルデバイス/太陽電池/印刷製膜技術

参考URL

http://opal.eei.eng.osaka-u.ac.jp/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。