研究

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コレステリックブルー相液晶の高速電気光学応用に向けた結晶学的理解

講師 吉田 浩之、教授 尾﨑 雅則(工学研究科 電気電子情報通信工学専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

ディスプレイに用いられているネマティック液晶材料はミリ秒程度で屈折率が切り替わる性質を持ちますが、LIDAR などの応用に向け、より高速なスイッチング速度をもつ液晶の研究開発が行われています。
コレステリックブルー相はネマティック相と比較して10倍程度の高速応答性をもつため次世代電気光学材料として期待されていますが、駆動電圧が高いことやヒステリシスを示すことに加え、結晶構造をもつため、電気光学応答が結晶方位に依存する課題がありました。本研究では上記の3つめの課題を解決するため、偏光顕微観察と顕微回折像観察によりブルー相液晶素子の作製時に生じる双晶の構造および電界印加時の挙動を初めて明らかにしました。また、アシスト電界を用いたブルー相の配向制御法を考案し広い面積で一様な配向を得ることに成功しました。

研究の背景と結果

液晶とは棒状分子が集団として向きを揃えて存在する光学材料であり、電界によってその屈折率を変化させられることからディスプレイに応用されています。現在実用化されているネマティック液晶では分子が比較的広い面積で一つの方向に向きを揃えていますが、次世代電気光学材料として期待されるコレステリックブルー相では液晶の配向方向が数百ナノメートルの3次元的な周期構造を形成しており、小さな体積内で分子が回転することから高速応答を示します。一方、ブルー相は駆動電圧が高いことやヒステリシスを示すことに加え、結晶構造をもつため応答が結晶方位に依存する課題がありました。
我々はブルー相の結晶構造に着目し、結晶学的な観点からその特性を理解し、制御する研究を展開しています。その一つの例として、偏光顕微観察および顕微回折像観察によりブルー相液晶素子の作製中に生じる双晶の構造を詳細に観察・解析しました。その結果、双晶面はブルー相 I の(112)面であることや、数ミクロンと薄い平板型液晶素子の面内方向と面外方向の両方に形成されうること、さらに双晶面は一旦形成されると、徐々に移動しながら数日以上残留してしまうことなどが分かりました。また、電界印加時には双晶を形成する各々の結晶が双晶面を鏡面として対称的に変形することもわかりました。双晶を形成したブルー相は一様配向したブルー相とは異なる光軸方位をもつため、電気光学効果が不均一に発生し、デバイスの特性に悪影響を及ぼし得ると結論付けました。
ブルー相の制御に向けた研究では、アシスト電界を用いたブルー相の配向手法を提案しました。誘電異方性が正のブルー相液晶では電界の印加方向に格子が伸長し、構造の異なる液晶への電界誘起相転移が生じます。この現象を利用し、高電界を印加してから特定の相を通るよう、徐々に電界を除去することで、広い範囲で一様なブルー相配向を得られることを示しました。

研究の意義と将来展望

本研究の与える知見はブルー相素子の特性を理解する学術的な基盤となるため、今後のブルー相液晶素子の開発に資するものです。また、アシスト電界を用いたブルー相の配向制御法は実デバイスとの親和性が高く、高品質なブルー相素子を作製する上で有効です。液晶はディスプレイや光変調器のみでなく、LIDAR や焦点可変レンズなどの次世代技術にも搭載が検討されているため、ブルー相が実用化されることで多くの機器の高性能化が期待できます。

担当研究者

講師 吉田 浩之、教授 尾﨑 雅則(工学研究科 電気電子情報通信工学専攻)

キーワード

液晶/コレステリックブルー相/結晶学/電気光学材料

応用分野

ディスプレイ/ライダー

参考URL

https://researchmap.jp/hiroyukiyoshida

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。