研究 (Research)
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住宅・建築物ストックのエネルギー需要のモデリングと脱炭素化に関する研究 (Energy demand modeling and decarbonization of residential and commercial building stock)
准教授 山口 容平(工学研究科 環境エネルギー工学専攻) YAMAGUCHI Yohei(Graduate School of Engineering)
研究の概要
本研究は、住宅・建築物ストック全体のエネルギー需要、二酸化炭素排出量を推計するシミュレーションモデルを開発しています。開発モデルは、①ストック全体の需要を個々の住宅・建築物のエネルギー需要の合計として定量化していること、②個々の住宅・建築物のエネルギー需要推計において人の行動を模擬していること、③ストック構成の多様性、経年変化を考慮していることにより、ストックの脱炭素化のために必要となる分析機能を備えた仕様に設計されています。
研究の背景と結果
住宅・建築物ストックを対象としてエネルギー需要を推計するモデルは世界でも多く開発されていません。これまでに開発されてきたモデルの多くは、住宅・建築物ストックを建設された年代でグループ化し、グループ別のストックを模擬する代表モデルを設計し、代表モデルを用いたエネルギー需要シミュレーションの結果をグループ全体に適用し、その積み上げとしてストック全体のエネルギー需要を定量化するものでした。このような仕様から、例えば住宅・建築物ストックの更新のシナリオに応じたエネルギー需要、二酸化炭素排出量の変化を定量化することができます。一方、上記のような多様な変化を扱うための方法論が開発されていませんでした。本研究では、日本のストックの多様性と技術採用の経年変化を考慮するため、建設年代だけでなく、A)建築仕様、B)設備仕様、C)省エネルギー手法採用状況、D)行動・施設の使われ方によりストックをグループ化し、上記の方法でエネルギー需要を推計する手法、加えて、A)~D)について経年変化を考慮する手法を開発しました。日本の業務部門(事務所、宿泊、医療、商業、学校を対象とした)に対して開発手法を適用した結果、対象ストックでは大幅な二酸化炭素排出量の削減が可能なこと、各種省エネルギー技術導入によるエネルギー効率の向上によって今後予想される暖冷房、給湯における電化に伴う電力需要の増加が回避可能であること、2013年度148MtCO2/ 年の二酸化炭素排出量に対して、2030年度までに予想される省エネルギー技術の普及によりその18%、現時点で広く普及している技術の普及拡大により30%が削減可能であることが明らかとなりました。
現在、開発モデルを用いて、日本の民生部門の二酸化炭素排出量削減進捗の評価、行動変容など生活様式の変化を含む日本の脱炭素化シナリオを開発しています。加えて、人の時間の使い方や移動行動を確率的に模擬するエージェントベースの生活行動シミュレーションモデルの開発、それを用いた電気自動車を含むエネルギー需要の推計と電力需給運用改善の検討を行っています。
研究の意義と将来展望
住宅・建築物ストックの脱炭素化は重要な課題です。日本政府は2030年度までに2013年比で二酸化炭素排出量を半減し、2050年度までにゼロ(カーボンニュートラル)にする目標を掲げています。目標実現のためには、住宅・建築物・エネルギー消費機器の省エネルギーによるエネルギー需要の削減、暖冷房・給湯などエネルギー源の電化、太陽光発電等再生可能エネルギーの利用など、様々な技術的対策の導入が必要です。行動変化を含む生活様式の変更も注目されています。「これらの対策をいつ、どの程度導入する必要があるのか?」を明らかにすることができれば、二酸化炭素排出量の削減目標達成のために必要な政策や技術開発の設計に貢献することができます。
担当研究者
准教授 山口 容平(工学研究科 環境エネルギー工学専攻)
キーワード
気候変動対策/エネルギー需要推計/脱炭素化/民生部門
応用分野
気候変動対策/スマートシティ