研究 (Research)

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2個の電子スピンの向きが揃った炭化水素分子の合成と物性の解明 (Synthesis and elucidation of physical properties of a hydrocarbon molecule with a triplet ground state)

准教授 清水 章弘、教授 新谷 亮(基礎工学研究科 物質創成専攻) SHIMIZU Akihiro , SHINTANI Ryo(Graduate School of Engineering Science)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 基礎工学研究科・基礎工学部 (Graduate School of Engineering Science, School of Engineering Science)

English Information

研究の概要

2個以上の電子スピンの向きが揃った高スピン炭化水素分子は磁石の基本単位となりうるが、反応性が高く不安定であるため、結晶化に成功した例はなかった。2個の電子スピンの向きが揃った三角形の炭化水素分子である、トリアンギュレンも約70年前から研究が行われてきたにも関わらず、その単離や結晶化には成功しておらず、基礎的な電子状態や物性さえも十分には解明されていなかった。
本研究グループは、トリアンギュレンの高い反応性を抑制するために、かさ高い置換基を導入して速度論的に安定化した誘導体を合成した。その結果、安定性が大きく向上することを見出し、単離と結晶化に成功した。また、2個の電子スピンの向きが揃っていることを実験的に明らかにし、基礎的な磁気的性質、光学的性質、電気化学的性質を解明した。

研究の背景と結果

2個以上の電子スピンの向きが揃った炭化水素分子は古くから研究されてきたが、反応性が高く不安定であるため、これまで結晶化に成功した例はなく、有機磁性材料としての応用も行われていなかった。例えば、トリアンギュレンという、6つの六員環が三角形になるように縮環した炭化水素分子は、2個の電子スピンの向きが大きな力で揃うと理論的に予想されており、約70年前から合成が検討されてきた。しかし、反応性が高いために、その発生は低温マトリックス中や、極低温および高真空下の金属表面上に限られており、単離と結晶化に成功していないため、詳細な電子状態や物性は解明されていなかった。
本研究では、トリアンギュレンを速度論的に安定化するために、スピン密度の大きな炭素原子を立体的に保護できるような、かさ高い置換基を導入した誘導体を設計・合成した。その結果、カラムクロマトグラフィーによる精製が可能であるほど安定性が大きく向上することを見出し、トリアンギュレン誘導体を単離し、結晶構造を明らかにすることに成功した。合成したトリアンギュレン誘導体は高い対称性を有しており、すべての六員環が芳香族性を示すことがわかった。また、電子スピン共鳴スペクトルの測定から、2個の電子スピンはトリアンギュレンの外周部に非局在化していることを明らかにし、磁化率測定から、その向きが揃っていることを実験的に明らかにした。2個の電子スピンの向きを揃えようとする力はとても大きく、室温でも向きが揃っていることがわかった。さらに、単離したことにより、基礎的な光学的および電気化学的性質も明らかにでき、基底三重項状態(T0)から最低励起三重項状態(T1)状態への遷移が禁制であることや、ジカチオンへの酸化およびジアニオンへの還元に対応する酸化還元特性を示すことを見出した。

研究の意義と将来展望

本研究は、2個の電子スピンの向きが揃った炭化水素分子の結晶構造を明らかにした世界で初めての研究成果である。本研究成果により、入手容易な原料である炭素と水素から構成される炭化水素分子を基盤とする有機磁性材料の開発が期待される。また、3個以上の電子スピンの向きが揃った炭化水素分子の合成にもつながると考えられる。

担当研究者

准教授 清水 章弘、教授 新谷 亮(基礎工学研究科 物質創成専攻)

キーワード

磁石/スピン/ラジカル/炭化水素/有機分子

応用分野

有機電子材料/有機磁性体

参考URL

http://www.chem.es.osaka-u.ac.jp/poc/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。