研究

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高圧合成法による革新的機能性量子物質の開発

教授 石渡 晋太郎(基礎工学研究科 物質創成専攻)

  • 理工情報系
  • 基礎工学研究科・基礎工学部

研究の概要

我々は、数万気圧以上の超高圧や強酸化雰囲気といった極限環境下で、高温超伝導体、スピントロニクス材料、熱電変換材料などの機能性量子物質の開発を進めています。現在注目している物質群の一つが、トポロジカル半金属と呼ばれる系で、超高移動度の伝導電子を内包するため、既存の半導体材料を凌駕する高速・省エネ電子材料となることが期待されています。
このようなトポロジカル半金属としての性質を有する磁性体を発見することができれば、新規スピントロニクス材料の開発へ繋がる可能性がありますが、そのような研究例は非常に限られていました。最近我々は、磁石としての性質を附与した新しいタイプのトポロジカル半金属α -EuP3の高圧合成および単結晶育成に成功しました。
さらに磁場下における様々な物性測定と第一原理計算を行うことで、この物質が結晶構造が有する鏡映対称面に対する磁場方位に依存して、異なる性質を示す複数のトポロジカル半金属相を生じる系であることを明らかにしました。

研究の背景と結果

近年、グラフェンに代表されるトポロジカル半金属と呼ばれる物質群が注目されており、これらは質量のないニュートリノとよく似た振る舞いを示す風変わりな電子集団を内包します。この電子集団を磁場で生成・制御することができれば、新たなスピントロニクスや超省エネ電子デバイスへの応用に繋がる可能性があります。
しかしながら、トポロジカル量子相と磁性の関係は単純ではないため、その実現は困難でした。最近我々は、新しい層状磁性半金属α -EuP3の単結晶を数万気圧の高圧下で育成することに成功し、ユーロピウムの大きな磁気モーメントの方向を磁場制御することによって、巨大異常ホール効果を示すノーダルライン半金属相と負磁気抵抗効果を示すワイル半金属相を選択的に生成することに成功しました。
さらに、第一原理計算で得られた磁場下でのバンド構造を精査したところ、α -EuP3で見いだされた磁場によるトポロジカル量子相の選択的生成は、磁場制御可能なユーロピウムの磁性とリン層の伝導性電子が微妙に結合しているということと、バンド構造の非自明なトポロジーが系の鏡映対称性によって保護されているという二つの特徴をこの系が有していることに由来すると結論付けられました。

磁性リン化合物α -EuP3の結晶構造(左上)と単結晶(右上)。
磁場によるトポロジカル量子相の選択的生成(下)。
マルチアンビル型高圧発生装置

研究の意義と将来展望

本研究は、磁場による非自明なバンドトポロジーの生成と操作のための現実的な解決策を提案するものであり、超省エネ・高速電子デバイスなどの新たな情報技術への応用につながる材料の開発が加速するものと期待されます。今後は第一原理計算とインフォマティクスを積極的に活用することで、高圧合成法を用いた機能性量子物質の戦略的開発を目指します。

担当研究者

教授 石渡 晋太郎(基礎工学研究科 物質創成専攻)

キーワード

トポロジカル半金属/高圧合成/スピントロニクス

応用分野

スマートデバイス/クリーンエネルギー

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。