研究

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超音速衝突の動的塑性変形に基づくコールドスプレー固相積層技術とMa-Wangモデル開発

教授 麻 寧緒、助教 Qian Wang(接合科学研究所)

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  • 接合科学研究所

研究の概要

コールドスプレーは、金属粒子の超音速衝突により数ナノ秒内で生じる動的塑性変形を利用する固相結合法で、実験で結合過程の観察が困難であるため、数値解析への期待が大きい。本研究では、転位ダイナミクスに基づき、ひずみ硬化、ひずみ速度硬化、超高ひずみ速度硬化、熱軟化を高精度で表現する新しい材料モデル(Ma-Wang モデル)を開発し、金属粒子超高速衝突のコールドスプレープロセスにおける動的超大塑性変形挙動、温度上昇、動的再結晶、界面結合メカニズムおよび積層材の内部残留応力を予測した。さらに純銅(Cu)、アルミ合金(Al6061-T6)、純ニッケル(Ni)、Ni 合金(Inconel718)に適用し、高精度と有効性を示した。

研究の背景と結果

現在、レーザーや電子ビームなどの高エネルギー熱源を利用した溶融積層造形技術では、溶融凝固時に発生した気孔や割れおよび柱状結晶による強い異方性などが課題となる。溶融積層造形技術の課題を解決するため、溶融現象を伴わないコールドスプレーの固相積層造形技術に注目した。しかし、従来のコールドスプレーによる固相積層材の粒子間には空隙が発生することがある。そこで、コールドスプレーとその場ピーニングを融合した新しい固相積層技術を用いると、高密度の積層材を作り出すことが可能で、結晶粒の微細化による強度の向上や圧縮残留応力の生成による疲労寿命の延伸も可能と考えている。
コールドスプレーは、1990年代にロシア研究者により提案され、その後、米国とドイツで研究開発が進められ、2000年代から日本や中国など多くの国でも活発な研究がなされている。このコールドスプレーは、米国政府が提唱している先進製造技術の中でも重点技術の一つとして記述されている。日本では、いくつかの研究グループが実験を中心に研究を行っている。
コールドスプレーは数ナノ秒内で生じる動的塑性変形を利用する固相結合法で、実験で結合過程の観察が困難であるため、数値解析への期待が大きい。しかし、長い間、コールドスプレープロセスの数値解析に必要な高精度の材料モデル(超高度の動的塑性変形に対応する力学構成式)がなかったため、固相結合メカニズムの解明に必要不可欠な動的塑性変形とそれに伴う温度上昇などの定量化データが得られていなかった。これらの背景を基に、コールドスプレー積層粒子の内部と粒子間の界面で発生した①超高ひずみ速度、②超大塑性変形、③衝突発熱軟化、④表面酸化層の破壊、⑤動的再結晶という5つの材料挙動を定量化・可視化する新しい動的材料モデルおよびコールドスプレーの4次元動的数値解析モデルを開発することを、本研究の目的とした。

Fig. 1. Development of the Ma-Wang material model based on dislocation dynamics
Fig. 2. High-accuracy prediction of deformation, grain size, and solid-state bonding during CS
Fig. 3. Measured and predicted CS residual stress

研究の意義と将来展望

本研究で開発した Ma-Wang モデルは、金属粒子の超音速衝突による動的超大塑性変形と固相結合の界面挙動を高精度で予測できたため、コールドスプレー固相結合メカニズムの解明に大きく貢献した。本研究成果を、異種金属や機能傾斜のコールドスプレー固相積層造形に適用し、最適なコールドスプレー積層条件または適正範囲を提示することが可能である。
さらに Ma-Wang モデルは、コールドスプレーのマルチスケール数値解析の基礎となり、ミクロ組織とマクロ性能の関係を定量化し、コールドスプレーの産業応用に貢献する。次の期待としては、他の研究分野(例えば、レーザーピーニングや摩擦攪拌積層造形など)に Ma-Wang モデルへの適用である。

担当研究者

教授 麻 寧緒、助教 Qian Wang(接合科学研究所)

キーワード

固相積層造形/コールドスプレー/材料モデル/応力ひずみ/ひずみ速度/残留応力

応用分野

ものづくり/材料接合

参考URL

http://www.jwri.osaka-u.ac.jp/research/research03_1.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。