研究

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細菌べん毛蛋白質輸送装置が膜電位依存的に活性化されるしくみの解明

准教授 南野 徹(生命機能研究科)

  • 医歯薬生命系
  • 生命機能研究科

研究の概要

急性胃腸炎を引き起こす病原細菌であるサルモネラ菌はべん毛と呼ばれる運動器官を使って人体の腸管上皮細胞まで移動し、III 型分泌装置と呼ばれる注射器にそっくりな毒針を使って腸管上皮細胞から感染します。毒針の根元に存在する分泌装置はべん毛を作るために必要なタンパク質輸送装置と機能的にも構造的にもそっくりです。私たちはIII 型分泌装置のモデルとしてべん毛タンパク質輸送装置の研究を進めてきました。べん毛輸送装置が細胞膜内外に形成される膜電位を利用してべん毛構成タンパク質を細胞外へ輸送することは知られていましたが、そのメカニズムは未解明のままでした。そこで本研究では、5種類の膜タンパク質からなる輸送ゲート複合体の膜電位依存性を解析した結果、輸送ゲート複合体には膜電位センサーが搭載されており、膜電位がある閾値を超えると自律的に活性化されるしくみを発見しました。

研究の背景と結果

サルモネラ菌の運動器官であるべん毛は約30種類のタンパク質からなる超分子複合体で、回転モーターとして働く基部体、ユニバーサルジョイントして機能するフック、らせん型プロペラである繊維の、3つの部分構造で構成されます。べん毛の根元には独自のタンパク質輸送装置が存在し、この輸送装置が菌体の外に長く伸びるべん毛を構築するために細胞内で合成されたべん毛構成タンパク質を認識し細胞外へ輸送します。べん毛輸送装置は FlhA, FlhB, FliP, FliQ, FliR と呼ばれる5種類の膜タンパク質からなる輸送ゲート複合体と FliH, FliI, FliJ と呼ばれる3種類の可溶性タンパク質からなる ATP 加水分解酵素複合体から構成されます。これまでに、私たちは、ATP 加水分解酵素複合体によるATP の加水分解反応で生じるエネルギーは輸送ゲート複合体の最初の活性化に使われること、活性化された輸送ゲート複合体は細胞膜内外に形成される膜電位を利用してべん毛構成タンパク質を細胞外へ送り出すことを明らかにしました。しかしながら、輸送ゲート複合体がどのように膜電位を使うのかは未解明のままでした。
ATP 加水分解酵素複合体が細胞内できちんと働くことができないサルモネラ菌変異株を用いて輸送ゲート複合体の膜電位依存性を解析した結果、輸送ゲート複合体は膜電位がある閾値を超えると自律的に活性化されることを突き止めました。この結果から、べん毛輸送ゲート複合体には膜電位センサーが搭載されていることが示唆されました。さらに、膜電位の上昇に伴って FliJ が FlhA に安定に結合すると、べん毛構成タンパク質の通り道である輸送チャネルのゲートが膜電位依存的に開くとともに、プロトンの内向きの流れに共役してべん毛構成タンパク質が細胞外方向に向かって輸送されることを発見しました。

図1:サルモネラ菌の電子顕微鏡写真とべん毛の根元に存在する III 型タンパク質
輸送装置の模式図
図2:FliI ATPase が働くことができないサルモネラ菌変異株のべん毛形成能

研究の意義と将来展望

長い間謎であったべん毛タンパク質輸送における膜電位の使われ方を明らかにするとともに、世界で初めて、イオンチャネル以外にも膜電位依存的に動作するタンパク質のしくみとして、タンパク質輸送ゲートを開閉できるしくみを発見しました。これらの発見により、べん毛タンパク質輸送装置と機能的にも構造的にも同じしくみを持つ病原細菌の III 型分泌装置を、直接ターゲットにした感染症治療のための創薬スクリーニングが可能になると期待されます。

担当研究者

准教授 南野 徹(生命機能研究科)

キーワード

細菌べん毛/III 型分泌装置/膜電位/細菌感染症

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

参考URL

https://www.fbs.osaka-u.ac.jp/ja/research_results/papers/detail/1022

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。