研究

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「フッ素を切る&つなげる」という革新的コンセプトに基づく有機フッ素化合物の新規合成法

准教授 西本 能弘、教授 安田 誠(工学研究科 応用化学専攻/先導的学際研究機構 触媒科学イノベーション研究部門(ICS-OTRI))

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研究の概要

世界で初めての炭素-フッ素結合への1炭素ユニットの挿入反応によるフッ素化合物の合成法を確立した。この反応は、「フッ素を切る&つなげる」という革新的なコンセプトが鍵となった新しいフッ素化合物合成法である。三フッ化ホウ素の「フッ素を切る&つなげる」という二つの働きが重要であり、三フッ化ホウ素がアルキルフルオリドからフッ化物イオンを引き抜き(「フッ素を切る」)、その後、フッ化物イオンを中間体に戻す(「フッ素をつなげる」)ことで、反応が完結することを量子化学計算により明らかにした。 

研究の背景と結果

フッ素は、医薬品や農薬、潤滑剤、撥水剤、界面活性剤、有機電子材料などの現代社会を支える高付加価値化合物において重要な置換基である。医薬品や農薬においては、フッ素の導入は代謝安定性や酵素に認識されるミミック効果などの薬剤活性を飛躍的に向上させる。事実、1991~2017年に発売された医薬品の16%にフッ素置換基が含まれる。このような理由から、有機フッ素化合物の新しい合成方法の開発は現代社会において大きな意義を持つ。しかし、従来法はフッ素置換基を有機化合物に導入する方法に限られており、高価で腐食性・毒性の高いフッ素化試薬が必要である点が問題であった。したがって、フッ素化合物の合成のための新しい方法論の確立が喫緊の課題となっている。
このような背景の中で、本研究では世界で初めての炭素-フッ素結合への1炭素ユニットの挿入反応によるフッ素化合物の合成法を確立した。この反応は、「フッ素を切る&つなげる」という革新的なコンセプトが鍵となったフッ素化合物の新しい合成法である。三フッ化ホウ素触媒存在下でフッ化アルキルとジアゾ化合物を反応させるとフッ化アルキルの炭素-フッ素結合にジアゾ化合物由来の1炭素ユニットが挿入した生成物が得られた。量子化学計算による反応機構解析により、三フッ化ホウ素の「フッ素を切る&つなげる」という二つの働きが重要であることが判明した。三フッ化ホウ素がアルキルフルオリドからフッ化物イオンを引き抜き(「フッ素を切る」)、その後、フッ化物イオンを中間体に戻す(「フッ素をつなげる」)ことで、反応が完結する。
また、本反応を利用することで、TRPC チャネル阻害剤のフッ素類縁体合成に成功した。 

研究の意義と将来展望

本研究で開発した「フッ素を切る&つなげる」という革新的手法は複雑なフッ素化合物ライブラリの構築を可能とし、そのことにより未知のケミカルスペースの創出が期待される。フッ素化合物は医薬品や農薬、機能性樹脂、有機電子材料などに実用化されている重要な化合物群であるために、次世代の医薬品や機能性材料の開発に大きな波及効果をもたらす。

担当研究者

准教授 西本 能弘、教授 安田 誠(工学研究科 応用化学専攻/先導的学際研究機構 触媒科学イノベーション研究部門(ICS-OTRI))

キーワード

ルイス酸/フッ素化合物/炭素-フッ素結合活性化/挿入反応

応用分野

創薬/有機電子材料

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。