研究

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細胞外小胞を介した骨代謝制御機構の解明

特任助教(常勤) 上中 麻希(医学系研究科 免疫細胞生物学)、准教授 菊田 順一、教授 石井 優(医学系研究科/生命機能研究科 免疫細胞生物学)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)
  • 生命機能研究科

研究の概要

骨は常に新しく作り変えられ新陳代謝を行なっている。破骨細胞が古く傷んだ骨を壊し、そこに骨芽細胞が新たな骨をつくる。この破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成のバランスが崩れると、骨粗鬆症などの骨関連疾患を引き起こす。これまで、骨吸収から骨形成への移行を調節する因子については数多く報告されてきたが、骨形成から骨吸収へどのように移行するか、その制御因子についてはよくわかっていなかった。
我々は、これまでに独自で開発してきた生体イメージング技術をさらに改良し、生体内で骨芽細胞が細胞外小胞と呼ばれる小胞を分泌することを発見した。さらに、小胞を取り込んだ周囲の骨芽細胞が、「骨形成を抑制する作用」と「骨吸収を担う破骨細胞の分化を誘導する作用」を持ち、骨形成から骨吸収へと骨代謝を制御していることを見出した。また、このメカニズムとして、小胞中に含まれるmiR-143-3p が寄与していることを明らかにした。

研究の背景と結果

これまで我々は、多光子励起顕微鏡を用いて、個体を生かしたまま骨の内部を可視化する生体イメージング系を開発し、骨組織内の破骨細胞と骨芽細胞を同時に観察することで、細胞の動態・機能・相互作用を解析しその制御機構を明らかにしてきた。この技術を用い骨組織を構成する破骨細胞と骨芽細胞の動態や機能を、様々な条件下で可視化することで、細胞動態からみた骨のリモデリングの新たな制御機構を明らかにしてきた。特に破骨細胞では、主な機能である骨を溶かす機能を「pH 応答性蛍光プローブ」を用いて生体イメージイングで可視化し、その動きと機能の関係性を明らかにした。一方で、骨を作る骨芽細胞については、その動態は不明な点が多かった。
そこで、これまでの生体イメージング技術をさらに改良し、ほとんど生体内での動態がわからなかった骨芽細胞の動きを捉えることに成功し、骨芽細胞間の細胞外小胞を介した相互作用を発見するに至った。

図1. マウス生体内での骨芽細胞の様子
骨芽細胞が小胞を分泌し取り込んでいることを明らかにした。シアン : 骨芽細胞 ;
青色: 骨; 矢頭 : 骨芽細胞の小胞。点線矢印 : 小胞の軌跡。A. 広域像 ; Bar: 20μm;
B. 拡大像のタイムラプス画像 ; Bar: 5μm。
図2. 小胞を投与した骨芽細胞は骨芽細胞の分化を抑制し破骨細胞を誘導する
A. 小胞を投与した骨芽細胞は石灰化能が低下した。赤色 : 石灰化 ; Bar: 200μm。
B. 小胞を投与した骨芽細胞は、 破骨細胞分化を誘導した。赤色 : 破骨細胞 ; Bar:
100μm。
C. サマリー:小胞を取り込んだ骨芽細胞は、骨形成を抑制し、破骨細胞分化を促進した。

研究の意義と将来展望

我々の体は骨形成過程において、どのように骨形成の終わりを感知し制御しているのか、そのメカニズムはわかっていなかった。骨をつくる骨芽細胞は、自らが作りだす骨基質に小胞を分泌し、その局所において周囲の骨芽細胞の分化を抑制し破骨細胞分化を誘導する機能を担っていることが、我々の研究から明らかとなった。また、小胞の機能の中心的役割を果たすmiR-143-3pの同定にも成功した。
将来的には、骨形成から骨吸収への移行を時空間的かつ緻密に制御するこの小胞を、骨粗鬆症や異所性骨化の病変部へデリバリーし、骨吸収や石灰化の制御を通した治療への応用を目指す。

担当研究者

特任助教(常勤) 上中 麻希(医学系研究科 免疫細胞生物学)、准教授 菊田 順一、教授 石井 優(医学系研究科/生命機能研究科 免疫細胞生物学)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
菊田 順一
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2016/4nub9r/
石井 優
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2018/jwhvw/

キーワード

骨代謝/生体イメージング/細胞外小胞/骨芽細胞/破骨細胞

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

参考URL

http://www.icb.med.osaka-u.ac.jp/index.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。