研究 (Research)

最終更新日:

コロイド量子ドットの開発と機能化 (Synthesis and functionalization of colloidal quantum dots)

准教授 上松 太郎(工学研究科 応用化学専攻) UEMATSU Tarou(Graduate School of Engineering)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 工学研究科・工学部 (Graduate School of Engineering, School of Engineering)

English Information

研究の概要

数ナノメートルの半導体微粒子である「量子ドット」は、化学的手法によって得られ、色純度の高い発光を特徴とするコロイド状の蛍光体である。粒径と組成の両方によって半導体のエネルギー構造が変化し、発光色を自在に変化させることが可能であり、様々な光デバイスの高性能化を支援する新材料として大きな注目を集めている。我々は量子ドットの周囲環境を整えることによる機能化や、環境適合性の高い新たな量子ドット開発を通じ、コロイド量子ドットのデバイス化を目標とした研究を続けている。 

研究の背景と結果

量子ドット開発の起源は、30年前のナノサイズの半導体からの微弱な蛍光の発見である。それが今や市販のディスプレイの波長変換材料として搭載されるまでに急成長した。数年前まで、特性の優れた量子ドットはすべてカドミウム化合物であったが、民生品への利用が低毒性量子ドット開発を後押ししている。
我々のグループも10年以上前からカドミウムフリー量子ドットを研究し、3つ以上の元素で構成される「硫化銀インジウム量子ドット」やその類縁体の発光に成功したが、それはスペクトル幅の広い「欠陥発光」であった。多くの研究者がスペクトル狭小化にチャレンジしたが、数年間全く成果が出ず、「多元素量子ドットは構造が複雑で欠陥だらけであり、良質な発光は得られない」と考えられていた。そのような状況下、我々はナノ粒子の表面状態に注目し、「硫化ガリウム」という前例の無い材料で被覆したところ、表面欠陥準位の除去に成功し、カドミウム化合物量子ドットに匹敵する狭いスペクトル幅の発光を得ることに世界で初めて成功した。その後もコア半導体の合金化によるバンドギャップ調整を試み、蛍光材料として価値の高い緑色や赤色発光を、高い単色性で得ることに成功している。
量子ドットの励起エネルギーを自在に操るためには、表面のさらに外側の材料設計が必要である。その実現に向けた第一歩として、温和な条件で結晶成長し、構成分子によって光性質の調整も可能な金属―有機構造体(MOF)に注目した。MOF の格子サイズは量子ドットよりも小さいため、量子ドット表面から MOF を成長させることによる複合化を試みた。ZIF-8と呼ばれる代表的な MOF を用いた研究では、多面体の MOF 結晶の中心にたった1つの量子ドットが存在する究極の状態を得ることに成功した。また、青色発光する IRMOF-3内部に赤色発光する量子ドットを被覆したところ、MOFから量子ドットへのエネルギー移動が起こり、発光強度を倍増させることに成功した。 

硫化銀インジウム量子ドットを硫化ガリウムシェルで被覆することにより、表面
欠陥を除去してスペクトル幅の狭いバンド端発光を得ることに世界で初めて成功
量子ドット表面から MOF を成長させることで、MOF 結晶中心部に量子ドットを
内包する複合体の作成に成功。赤色発光量子ドットを青色発光する MOF で被覆
することによりエネルギー移動を起こし、量子ドットの発光を倍増
硫化銀インジウム量子ドットコアのバンドギャップチューニングによるカドミウ
ムフリー緑色蛍光体の実現

研究の意義と将来展望

コロイドとして得られた量子ドットを様々なマトリクスに包埋し、光や電子のやりとりを可能にする手法の開発は、高性能な量子ドットデバイスの実現に欠かせない要素技術であると考えられる。とりわけ、有機ELと同様の素子構造中に量子ドットを組み込んだ量子ドットELや、量子ドットを利用した波長自由度の高いレーザーの開発が進められる中、精密に化学合成された量子ドットの性質を損なうことなくこれらのデバイスに活用するための新しいアイデアが強く求められている。

担当研究者

准教授 上松 太郎(工学研究科 応用化学専攻)

キーワード

量子ドット/カドミウムフリー/蛍光体

応用分野

ディスプレイ/照明/バイオイメージング

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。