研究

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金属3Dプリンタによる異方性形状・材質制御~高機能金属デバイス創製の新基軸~

教授 中野 貴由、特任教授 石本 卓也、准教授 松垣 あいら、助教 小笹 良輔(工学研究科 マテリアル生産科学専攻)

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研究の概要

中野研究室では、金属3D プリンタを駆使し、金属3D プリンタが本来得意とする精緻な形状の制御に加えて、金属材料の材質、とりわけ結晶集合組織(原子の並びの向きと度合)の自在な制御に世界に先駆けて成功し、これまでに多数の高機能金属材料を創出している。金属3D プリンタの高度な形状制御能を駆使して初めて実現される細胞オーダーの一方向性微細溝構造によって、質の高い骨を迅速に誘導するという独自の設計指針に基づく新たなチタン合金製脊椎ケージを創製し、実用化に至っている。さらに、チタン基、ニッケル基、鉄基といった社会基盤を成す構造材料から、ハイエントロピー合金といった最先端の金属材料に至るまで、広範な材料にて材質制御による高機能化(力学機能、生体親和性や耐食性)を達成している。

研究の背景と結果

これまでの研究から、超高機能な材料・デバイスの創製には、三次元での異方性付与により必要な方向に特化して高機能特性を発現させることが不可欠であることを実感してきた。当研究室では、こうした異方性への着眼に基づき、特定方向に究極的な高機能特性を引き出すための材料開発とその機構解明に関するサイエンス、すなわち「異方性の材料科学」の構築を推進している。微細な粉末を出発材料とし、レーザや電子線の走査による微細な溶融領域(溶融池)を積層して三次元構造を形成する3D プリンタは、「異方性」とのマッチングが極めて高いテクノロジーであることを近年明らかにした。
3D プリンタの精緻な形状制御能は、細胞オーダーでの金属表面形状制御を可能とした。一方向性微細溝構造の形成により骨芽細胞の配列化を促進し、高度に基質配向化した高強度な骨を誘導することに成功した(図1)。本構造は脊椎ケージに搭載され、2022年9月より全国規模の大規模臨床治験が開始され、既に多くの患者さんの健康と生活の質の向上に貢献している。
一方、微細な溶融池内での凝固挙動を緻密に調整することで、原子の配向性(並びの向きや度合)の広範な制御を可能とした(図2)。単結晶化は、ヤング率をはじめとする力学機能の異方性を生じ、結晶方位の選択により同一素材であるにもかかわらず用途に応じた物性値を選択可能とする。例えば、低ヤング率の選択はインプラントによる骨への応力遮蔽・骨機能劣化の抑制、高ヤング率の選択は弾性変形時のひずみを低減し疲労破壊の抑制、にそれぞれ寄与する。さらに、微細周期でのレーザ走査は、本手法でしかなし得ない、異なる結晶配向方位を示す二層からなる微細ラメラ構造を実現し、層界面でのすべり変形に対する抵抗を生じることで顕著な強度上昇をもたらす。
このように、金属3D プリンタによって達成されるサブ mm オーダー、原子オーダーでの異方性制御は、金属材料に新たな高機能性を与える。当研究室からの臨床適用(社会実装)例も出始めており、当研究室の重点課題として今後も金属3Dプリンタによる異方性制御研究を推進していく。

図1 金属3Dプリンタの緻密な形状制御能に基づく微細溝構造を備えたチタン合金
製脊椎ケージ。微細溝構造が質の高い骨を誘導し、従来型ケージと比較して、埋入
初期より著しい強度の上昇をもたらす。
図2 金属3Dプリンタで可能となった結晶配向制御と、特異ラメラ組織形成による
高強度化(Inconel718の例)。荷重軸を変えることで層界面でのすべり変形に対す
る抵抗を変化させ、さらなる高強度化が達成される。

研究の意義と将来展望

中野研究室で可能としている3D プリンタによる「異方性形状・材質」制御は、これまで形状特性に基づく機能性付与ばかりが注目されてきた3D プリンタの活用法を180度転換するものである。3D プリンタによって初めて可能となる、形状・材質の異方性を前提とした設計法の創出により、製品性能の飛躍的な向上のみならず、製品設計指針の大きな変革が期待される。

担当研究者

教授 中野 貴由、特任教授 石本 卓也、准教授 松垣 あいら、助教 小笹 良輔(工学研究科 マテリアル生産科学専攻)

キーワード

3Dプリンタ/結晶集合組織/異方性

応用分野

医療・ヘルスケア材料/高温構造材料

参考URL

http://www.mat.eng.osaka-u.ac.jp/msp6/nakano/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。