研究

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航空機エンジン用TiAlタービン翼の3Dプリンティング

准教授 趙 研、教授 安田 弘行、教授 中野 貴由(工学研究科 マテリアル生産科学専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

金属系3D プリンティング(以下、3DP)では、粉末の積層・溶融・凝固を繰り返すことで任意形状の三次元構造物を容易に造形できることから、ものづくりに革新をもたらす技術として注目を集めている。本研究では、3DP の一種である電子ビーム粉末床溶融結合法(以下、EB-PBF)を用いて、航空機用エンジンに用いる、TiAl合金製の低圧タービン翼の造形に取り組んだ。
その結果、TiAl 特有の微細組織は、EB-PBF のビーム電流、走査速度といったプロセス条件に強く依存することを明らかとした。さらに、その力学特性は微細組織に強く依存し、とりわけ、低ビーム電流、高走査速度の条件では、冷却速度が速いため、マッシブ変態、という特殊な相変態を経由した組織発展が生じることで、既存の TiAl 合金をはるかに凌駕する高温強度を有する造形体の作製に成功している。

研究の背景と結果

TiAl 金属間化合物は軽量高強度で耐酸化性に優れることから、航空機用エンジンの低圧タービン翼に実用化されている。従来、このTiAlタービン翼は精密鋳造法で製造されているが、TiAlは非常に活性であるため、るつぼとの反応によるコンタミや酸化によって形成される表面汚染層を切削する必要があり、このため原材料が大量にロスする点が問題であった。近年、注目を集めている金属系3Dプリンティング(積層造形)では、粉末の積層・溶融・凝固を繰り返し行うことで、任意形状の三次元構造物を造形することが可能である。とりわけ、電子ビーム粉末床溶融結合法(Electron Beam Powder Bed Fusion、以下、EB-PBF)では、るつぼを用いず、真空中で造形するため、コンタミや酸化の影響を心配する必要がないため、TiAl の造形に最適なプロセスであるといえる。
大阪大学大学院工学研究科附属異方性カスタム設計・AM 研究開発センターは2014年12月に設立され、その活動の一環として、EB-PBF による TiAl タービン翼の製造技術開発に取り組んできた。その結果、EB-PBFのビーム電流、走査速度といった造形条件を変化させると、TiAl特有の微細組織を制御可能であることを明らかにしている。例えば、高ビーム電流、低走査速度の条件では通常の鋳造材と同じような組織発展をたどるが、低ビーム電流、高走査速度の条件では、電子ビーム移動後の冷却速度が速いため、マッシブ変態、と呼ばれる特殊な相変態が生じ、その後に形成されるナノ層状組織に由来して、従来の TiAl合金を凌駕する高温強度が得られる。
以上のように、EB-PBF はタービン翼のような複雑形状を再現できるだけでなく、TiAl 特有の組織を自由自在に制御できることを明らかにしている。以上のような知見を活かして、近年では、20cm 長の TiAl タービン翼の試作とその組織制御にも成功している。

図1 EB-PBF による造形の概略図と外部・内部形状制御の例。一層ずつ積層する
ため造形体内部に微細な構造を作り込むことが可能。
図2 プロセス条件を制御することで微細組織が変化。特殊な相変態を利用するこ
とでナノ層状組織が得られ、既存材の1.7倍もの高強度化を実現。

研究の意義と将来展望

一般に、3DP は形状制御のためのツールとして用いられてきた。しかしながら、本研究では、そのプロセス条件を変化させることで、TiAl合金の微細組織と力学特性を自由自在に制御できることを明らかとしている。さらに、得られた知見を活かして、20cm 長のタービン翼の製造技術の確立にも成功している。3DP による形状・組織同時制御が実現したことで、新規タービン翼開発に新たな展開が期待される。

担当研究者

准教授 趙 研、教授 安田 弘行、教授 中野 貴由(工学研究科 マテリアル生産科学専攻)

キーワード

3D プリンティング/積層造形/航空宇宙材料/金属間化合物/高温耐熱材料

応用分野

航空宇宙/エネルギー

参考URL

http://www.mat.eng.osaka-u.ac.jp/sipk/am/
http://www.mat.eng.osaka-u.ac.jp/mse3/mse3-homeJ.htm
http://www.mat.eng.osaka-u.ac.jp/msp6/nakano/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。