研究

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フレキシブル有機電子回路における高精度な電気特性制御技術

特任准教授 植村 隆文、教授 関谷 毅(産業科学研究所 先進電子デバイス研究分野)

  • 理工情報系
  • 産業科学研究所

研究の概要

フレキシブル電子デバイスは、無意識下のウェアラブル生体計測を実現するためのデバイス技術として、遠隔医療・デジタルヘルスケアで実現する持続的な社会の構築を目指して研究開発が行われています。本研究では、光照射によって分子構造が変化する高分子材料を有機トランジスタの絶縁層として用いることにより、集積回路の特性を自在に変化させることに成功しました。
この技術は、単一のデバイス積層構造と、同じ有機材料の組み合わせで構成される有機トランジスタにおいて、光照射を行うことによってトランジスタの電気特性を自在に変化させる技術です。複数の有機トランジスタから構成される集積回路の作製工程において、狙ったトランジスタのみを光照射によって制御することが可能であるため、従来方法と比べて飛躍的に簡単な工程と、少ない材料使用によって電子回路特性を制御することが可能です。

研究の背景と結果

本研究グループでは、本質的に高い機械的柔軟性を有する有機電子材料を活用したフレキシブル有機トランジスタ回路のデバイスへの応用を進めてきました。しかし、生体信号計測を実現するセンサデバイスは、スイッチング回路、信号処理回路など、複数の電子回路から構築されるため、目的のデバイス特性を得るためには個別のトランジスタの電気特性制御技術の開発が求められていました。
今回、研究グループは紫外光を照射することによって分子構造が変化する高分子材料を有機トランジスタの絶縁層として用いることにより、集積回路の電気特性を自在に制御する技術を構築しました。この技術では、光の照射量を調整することにより、有機トランジスタのしきい値電圧(トランジスタの ON、OFF が切り替わる際の Gate 印加電圧)を –1.5 V から +0.2 V の範囲で任意に調整可能です。また、光を用いた技術であるため、特性制御における二次元空間分解能にも優れており、今回の研究ではおよそ18 µm の精度で分子構造変化を誘起できることを確認しました。今後、光照射手法の工夫によって空間分解能の改善が期待でき、より集積度の高い小型の回路製造にも応用可能な技術です。
加えて本技術は p 型と n 型、極性の異なる両方のトランジスタに適応可能であり、緻密な電気特性制御によって低消費電力を実現する相補型回路の実現が可能であることも明らかになりつつあります。本研究にて開発した技術により、同一の構造、同一の材料を用いた有機トランジスタの集積回路において、任意の光照射領域のトランジスタ特性のみを自在に変化させることが可能となりました。具体的には、低消費電力性能がより重視される回路機能、または高速動作がより重視される回路機能など、センサデバイスにおける信号処理部分で必要とされるそれぞれの回路機能を自在に同一の基板上に作り分けることが可能となります。

研究の意義と将来展望

本研究成果により、光照射による簡単な工程と、従来技術と比べて少ない材料使用によってフレキシブル有機電子回路の特性を自在に制御可能であることが示されました。これにより、フレキシブル電子回路の更なる高性能化が実現し、将来の遠隔医療・デジタルヘルスケアにおける重要技術である無意識下のウェアラブル生体計測を例として、実空間のあらゆる対象物ををセンシングする技術として活用されることが期待されます。

担当研究者

特任准教授 植村 隆文、教授 関谷 毅(産業科学研究所 先進電子デバイス研究分野)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
関谷 毅
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2023/OURG-01-01/
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2022/nl86_research01/

キーワード

フレキシブルエレクトロニクス/ウェアラブルデバイス/有機半導体

応用分野

遠隔医療・デジタルヘルスケア/IoTデバイス/AR/VR/MR技術

参考URL

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210921_2
https://wakasapo.nedo.go.jp/seeds/seeds-2020/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。