研究

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くも膜下出血患者における腸内細菌の特徴

助教 髙垣 匡寿、教授 貴島 晴彦(医学系研究科 脳神経外科学)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)

研究の概要

近年、腸内細菌は全身のさまざまな疾患に関係していることが報告されている。脳動脈瘤に関しても腸内細菌が関係していることが報告されているが、ヒトにおける脳動脈瘤の破裂に腸内細菌叢がどのように関係しているのかは不明であった。
今回、我々は脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症した患者と未破裂脳動脈瘤を保有する患者の腸内細菌を解析・比較し、くも膜下出血患者に特徴的ないくつかの細菌を同定した(Fig.1)。さらに、他の疾患を対象とした研究では検出されていないCampylobacter 属に注目し、種特異的な PCR 法を用いてより正確な検査を行った。その結果でもCampylobacter 属がくも膜下出血患者に多く検出されることが確認され、また、C. ureolyticus の検出率が高いことが明らかになった(Fig.2)。

Fig. 1: 群間比較解析結果
赤がくも膜下出血患者に多い菌を表す。
Fig. 2: 研究の概略
くも膜下出血患者と未破裂脳動脈瘤患者の腸内細菌叢を比較し、Campylobacter 属、その中でもC.ureolyticus が破裂に関与していることが示唆された。

研究の背景と結果

近年、腸内細菌はうつ病や関節リウマチ、動脈硬化など全身のさまざまな疾患に関係していることが報告されている。脳動脈瘤に関しても腸内細菌が関係していることが報告され始めているが、動物実験での結果など限られた研究のみでヒトの脳動脈瘤破裂に腸内細菌叢がどのように関係しているのかは明らかにされていなかった。
今回我々は大阪大学医学部附属病院とその関連施設において、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症した患者28人(女性20例、平均65.3歳)と未破裂脳動脈瘤を保有する患者33人(女性25例、平均69.1歳)に協力を依頼して便検体を回収し、腸内細菌の解析を行った。解析手法としては菌がもつ遺伝子の一部を調べることでその種類を同定する16S rRNA 解析を用いた。両群における患者背景の比較ではくも膜下出血群の動脈瘤最大径が未破裂脳動脈瘤群と比べて大きかったものの(5.8 vs 3.7mm; p<0.01)、他の項目では違いは認めなかった。また、腸内細菌の比較では多様性解析(β多様性)で有意な差をみとめ、群間比較解析(LEfSe)では3門、2網、3目、9科、28属で差がみられた(LDA score >2, p<0.05)。その中で、我々は他の疾患を対象とした研究では検出されていないCampylobacter 属に注目し、種特異的な PCR 法を用いてより正確な解析を行った。その結果でもCampylobacter 属がくも膜下出血患者に多く検出されることが確認され、また、C. ureolyticus の検出率が高いことが明らかになった(p<0.001)。

研究の意義と将来展望

本研究成果により、従来では年齢や性別、動脈瘤の大きさなどでしか予測しえなかった未破裂脳動脈瘤の破裂率に腸内細菌叢という新しい因子を加えることで、より高い精度で破裂予測ができるようになると期待している。また、これまでは外科的治療しか効果的な破裂予防ができなかった未破裂脳動脈瘤に対して、腸内細菌叢を操作し破裂予防を行うという新しい治療法につながるものと考えている。

担当研究者

助教 髙垣 匡寿、教授 貴島 晴彦(医学系研究科 脳神経外科学)

キーワード

くも膜下出血/脳動脈瘤/腸内細菌

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。