研究 (Research)

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COVID-19感染者における抗体産生およびB細胞エピトープ解析 (SARS-CoV-2-induced humoral immunity through B cell epitope analysis in COVID-19 infected individuals)

寄附講座教授 中神 啓徳(医学系研究科 健康発達医学) NAKAGAMI Hironori(Graduate School of Medicine)

  • 医歯薬生命系 (Medical, Dental, Pharmaceutical and Life Sciences)
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻) (Graduate School of Medicine, Faculty of Medicine (Division of Medicine))

English Information

研究の概要

本研究の目的は、コロナウイルス感染症2019(COVID-19)患者のB 細胞エピトープおよび抗体産生の解析を通じて、SARS-CoV-2に対する液性免疫を理解することである。我々は2020年の第1波で医療現場が混乱している中で、43人の COVID-19患者から血清を入手した。
多くの検体は SARS-CoV-2に対する中和活性を示し、SARS-CoV-2のスパイク糖蛋白(S 蛋白)あるいは受容体結合ドメイン(RBD)に対する抗体産生が認められたが、個人差がかなり大きかった。また、COVID-19患者の中和抗体価と IgG 抗体価の相関性も認められた。

研究の背景と結果

感染患者の抗体価は SARS-CoV2の重症度と相関することが報告されている。大阪大学医学部附属病院は集中治療を必要とする重症患者を主に受け入れており、患者の状態は急性期に近いと考えられる。一方、十三市民病院はコロナ感染症を積極的に受け入れている病院であるが、軽症・中等症の患者が多く、急性期を他院で治療した後に回復期の患者を受け入れている特性がある。実際に、S 蛋白に対する平均抗体価は大阪大学医学部附属病院の患者で高く、これは重症患者で高い傾向と一致する。この結果は S 蛋白に対する IgG が中和抗体として機能的に重要であることを支持するものである。B 細胞エピトープ解析(linear 連続するアミノ酸)においては、抗体産生部位は N 末端部位(NTD)、融合ペプチド(FP)、HR2、細胞質ドメイン(CP)など、RBD 以外の領域にも多く存在していた。さらに、ヌクレオカプシド、膜、エンベロープタンパク質内で同様に B 細胞エピトープを評価したところ、抗体産生部位はヌクレオカプシドタンパク質に多く存在した。
すなわち、コロナ感染の有無はワクチンの標的である S 蛋白だけでなくヌクレオカプシドに対する抗体を測定することが有用であることが示唆された。実際に、SARS-CoV2流行前の2019年に採取した血清試料は、ヌクレオカプシドタンパク質とほとんど交差反応せず、スパイク(S1+ S2)タンパク質およびスパイク RBD タンパク質と交差反応しなかった。すなわち、他の種類のコロナウイルス感染による交差抗体は、多くの日本人においてほとんど検出されないことが分かり、これらの抗体上昇が SARS-CoV2感染の特異的な指標となることが示唆された。新型コロナウイルス感染症のパンデミック初期(第1波)に実施された本研究で実施された患者血清からの S タンパク質の抗体産生と B 細胞エピトープの解析は、SARS-CoV-2に対する液性免疫の理解とワクチン開発のための重要な情報となった。

COVID19感染患者の抗体価・中和活性
(大阪大学医学部付属病院 12名・十三市民病院 31名)
B cell エピトープ解析
 ウイルスとスパイク蛋白が結合する RBD 領域には強く結合する linear B cell
エピトープ(連続するアミノ酸配列に対する抗体)は認めなかった。
 一方、S2蛋白領域に強く結合する linear B cell エピトープ(連続するアミノ
酸配列に対する抗体)を認めた。
B cell エピトープ解析
 阪大病院入院中患者7名の血清を用いて網羅的解析を行った。
 linear B cell エピトープ(連続するアミノ酸を認識する抗体)はウイルスとス
パイク蛋白の結合領域(RBD)にはあまり認められなかった。
 一方、NTD(N 末端領域)や S2蛋白領域には複数の患者で共通する linear B
cell エピトープが認められた。

研究の意義と将来展望

COVID-19に対する免疫反応を理解するためには、ウイルス特異的CD4+ および CD8+ T 細胞の解析が必要である。特に液性免疫の観点では、S タンパク質に対する CD4+ T 細胞応答は抗 SARS-CoV-2 IgGおよび IgA 抗体価の大きさと相関することが報告されており、S タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に対する抗体価は、スパイク特異的CD4+ T細胞応答の増加とよく相関することも知られていた。そこで、大阪大学医学部附属病院集中治療室(n =12)および大阪市立十三病院入院中(n =31)の回復期患者の血清を入手し、S 蛋白に対する抗体産生および中和能を測定したところが、SARS-CoV-2の S 蛋白あるいは RBD に対する抗体産生の個人差が大きいことが明らかとなった。また、B 細胞エピトープの解析では患者血清中に S 蛋白の RBD だけでなく N 末端ドメインにも多くの抗体産生が観察された。

担当研究者

寄附講座教授 中神 啓徳(医学系研究科 健康発達医学)

キーワード

新型コロナウイルス/抗体/エピトープ

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。