研究

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感染症迅速検査プラットフォームの開発

教授 谷口 正輝(産業科学研究所 バイオナノテクノロジー研究分野)

  • 理工情報系
  • 産業科学研究所

研究の概要

AI ナノポアを用いて、唾液を5分間計測することで、新型コロナウイルスを感度90%、特異度96% で検出できることを実証した。AI ナノポアを用いた検査法は、新型コロナウイルスの変異型も高精度に識別することができる。AI ナノポアは、ナノポアの直径と学習データを変更するだけで、新たな感染症の迅速検査法を開発できるプラットフォームである。

研究の背景と結果

抗原抗体反応や PCR を用いる方法が、ウイルスや細菌による感染症の検査法として使われている。抗原抗体反応による検査法は、簡便・迅速であるが、感度・特異度が低い。PCR 検査法は、高い感度・特異度を持つが、前処理に熟練した手技が必要となり、時間がかかる場合が多い。誰でも使える簡便さと高い感度・特異度を合わせ持ち、高スループットかつ低コストな感染症検査法の迅速開発が、強く求められている。
ナノポアは、シリコン基板に半導体技術で作製された貫通孔である(図1)。1個のウイルスや細菌がナノポアを通過するとき、ウイルスや細菌に特有な1つのイオン電流―時間波形が得られる。この波形は、ウイルスや細菌の体積・構造・表面電荷の情報を持つ。ヒトの目では区別が難しい波形も、AI は区別することができるため、ウイルスや細菌の種類が、1個単位で識別される。
AI とナノポアを融合した AI ナノポアを用いて、培養した SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV、および HCoV-229E の高精度な識別に成功した。また、培養したインフルエンザウイルス A 型と SARS-CoV-2の高精度な識別も実証した。患者から採取した唾液検体をろ過後、AI ナノポアを用いて、PCR 陽性検体と PCR 陰性検体の学習とテストを行った(図2)。前処理は、ろ過のみであった。ろ過後の臨床検体は、陽性・陰性検体ともに、多くの夾雑物を含む。夾雑物に由来する波形の中から、ウイルスの波形を抽出する機械学習を開発し、実装した。感度・特異度は、計測時間の増加とともに向上し、5分間の計測で、感度90%、特異度96% を達成した。
開発した AI ナノポアは、ナノポアモジュール、計測装置、AI から構成され、理化学機器として販売されている。現在、感染症検査の医療機器に向けた研究開発を行っている。

図1
図2

研究の意義と将来展望

20世紀から数年に1つの割合で、世界で新興感染症が生じている。今後も、この傾向が継続すると予測される。新たな感染症の発生に即座に対応できる検査プラットフォームが、感染症の拡大と経済損失を最小限に留める役割を担う。AI ナノポアプラットフォームは、検査対象に応じて、ろ過による簡単な前処理とナノポアの直径を変え、学習データを変更するだけで、ウイルスから細菌まで検査することができる。
現在まで開発した AI ナノポアプラットフォームを半導体技術により集積デバイスにすることで、スマートフォンで手軽に感染症検査できる未来が近づいている。1つのチップ上に複数のナノポアを持つ検査デバイスは、1回の計測で多種のウイルス・細菌検査を可能にする。ナノポア、AI、IT の融合システムは、世界のいつ、どこで、どんな感染症が生じているかを瞬時に知らせ、世界の安全・安心・健康な社会を見守る(図3)。

図3

担当研究者

教授 谷口 正輝(産業科学研究所 バイオナノテクノロジー研究分野)

キーワード

感染症/迅速検査/ナノポア/AI

応用分野

医療・ヘルスケア/スマートデバイス

参考URL

http://www.bionano.sanken.osaka-u.ac.jp

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。