研究

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大腸がんにおけるSTAG3遺伝子の働きと化学療法耐性に関わるメカニズムの解明

助教 三吉 範克、教授 江口 英利(医学系研究科 消化器外科学)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)

研究の概要

大腸がんの化学療法として様々な抗がん剤の開発が進められてきていますが、治療が奏功する症例もあれば抵抗性を示し増悪を認める症例もあります。本研究では染色体分裂に関連する STAG3という遺伝子の働きに着目し、がんの部分での遺伝子発現の程度や核酸やタンパク量を評価しました。大腸がんに対して外科切除を行った172例を対象として、STAG3遺伝子を調べたところ、この遺伝子の発現が高い大腸がんでは術後の再発率が高く、全生存率が低いという結果が示されました。また STAG3遺伝子の発現の程度は大腸がんの血清腫瘍マーカーの数値や病理組織学的進行度と比較しても、独立した予後不良因子であるということが示されました。さらに大腸がん細胞株を用いてこの遺伝子の発現を抑制すると、がん細胞の移動能が抑制され、抗がん剤の添加により細胞死が有意に誘導されたことから、大腸がんに対する化学療法の感受性が高まるということが示されました。この遺伝子の働きについて分子メカニズムの解析を行ったところ、MEK/ERK シグナルパスウェイに関わることが示唆されました。

研究の背景と結果

大腸がんの化学療法として様々な抗がん剤の開発が進められてきていますが、治療が奏功する症例もあれば抵抗性を示し増悪を認める症例もあります。本研究では染色体分裂に関連する STAG3という遺伝子の働きに着目し、がんの部分での遺伝子発現の程度や核酸やタンパク量を評価しました。
大腸がんに対して外科切除を行った172例を対象として、STAG3遺伝子を調べたところ、この遺伝子の発現が高い大腸がんでは術後の再発率が高く、全生存率が低いという結果が示されました。また STAG3遺伝子の発現の程度は大腸がんの血清腫瘍マーカーの数値や病理組織学的進行度と比較しても、独立した予後不良因子であるということが示されました。大腸がんの手術後に補助化学療法を行った89例について予後の解析したところ、STAG3遺伝子の発現の高い症例で再発率が高く、全生存率が低いという結果が示されました。さらに4種の大腸がん細胞株を用いてこの遺伝子の発現を抑制する実験を行ったところ、がん細胞の移動能が抑制され、抗がん剤の添加により細胞死が有意に誘導されたことから、大腸がんに対する化学療法の感受性が高まるということが示されました。
この遺伝子の働きについて分子メカニズムの解析を行ったところ、MEK/ERK シグナルパスウェイの ERK の発現を制御する DUSP6という遺伝子に関連して機能することが示唆されました。STAG3の発現を抑制することで DUSP6を介して MEK/ERK シグナルパスウェイを負に制御することが、がん細胞の増殖や進展の制御、抗がん剤の感受性の増加につながるのではないかと考えられました。
本研究成果から、大腸がんの化学療法の治療抵抗性に関わる STGA3遺伝子の働きが明らかとなりました。この遺伝子が働くメカニズムは既存の分子標的治療薬のパスウェイに関連することから、従来の治療に抵抗性を示すような大腸がんについて新たな治療ターゲットとなることが期待されます。

研究の意義と将来展望

本研究成果から、大腸がんの化学療法の治療抵抗性に関わる STGA3遺伝子の働きが明らかとなりました。この遺伝子が働くメカニズムは既存の分子標的治療薬のパスウェイに関連することから、従来の治療に抵抗性を示すような大腸がんについて新たな治療ターゲットとなることが期待されます。

担当研究者

助教 三吉 範克、教授 江口 英利(医学系研究科 消化器外科学)

キーワード

大腸がん/STAG3/化学療法/再発/予後

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。