研究

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子宮平滑筋肉腫の発症・血行性転移の新規メカニズム解明

助教 小玉 美智子、教授 木村 正(医学系研究科 産科学婦人科学教室)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)

研究の概要

子宮平滑筋肉腫は急速な腫瘍増大及び血行性転移を早期から来たす悪性度の高い腫瘍で、50%生存期間は約31ヶ月と予後不良である。外科的治療以外の標準治療が存在せず、昨今分子標的治療薬が開発されているが、その効果は極めて限定的である。
本研究ではマウスを用いた網羅的な癌遺伝子同定法であるトランスポゾンスクリーニングを行い、子宮筋層特異的に Pten 欠損、Kras 活性化を生じる免疫正常マウスにおいて発生した子宮平滑筋肉腫、及び転移性肺腫瘍から平滑筋肉腫発症・血行性転移に関するドライバー遺伝子候補を複数同定した。平滑筋肉腫発症に関与したと考えられる19遺伝子のうち最も高頻度にトランスポゾン転移挿入が認められたジンクフィンガー蛋白の一つである Zfp217、転移性肺腫瘍に関与すると考えられたナルディライジンをコードする Nrd1について、ヒト子宮平滑筋肉腫における癌遺伝子としての機能を示し、これらの抑制が治療戦略となる可能性を示した。

研究の背景と結果

子宮平滑筋肉腫は増殖速度が非常に速く転移能が高い極めて高悪性度の腫瘍で、化学療法や放射線療法に抵抗性である為、非常に予後不良である、希少疾患であることから大規模臨床試験施行また網羅的遺伝子データベース構築が困難であり、本疾患に対する創薬はその検証および開発資金の問題で困難である。今回、各種癌に対する新規治療標的を発見する有用な手段であるForward genetic screeningの一つ、マウスの標的臓器において網羅的にゲノムワイドにトランスポゾンの無作為挿入変異が反復される Sleeping beauty (SB)トランスポゾンスクリーニングを子宮平滑筋肉腫を対象に行った。
子宮筋層特異的に Pten 欠損、Kras 活性化を生じるマウスは子宮腫瘍を発生しないが、更に SB トランスポゾンの転移挿入が生じるとほぼ全例に月齢2−3ヶ月間に子宮平滑筋肉腫が発生した(図1, 2)。腫瘍DNA を次世代シーケンサーで解析しトランスポゾン挿入部位を同定、腫瘍発生に関連した候補遺伝子19個をリスト化した。うち最も高頻度にトランスポゾン転移挿入が認められたジンクフィンガー蛋白の一つである Zfp217について、ヒトホモログ ZNF217がヒト子宮平滑筋肉腫組織で蛋白レベルで発現していること、ヒト子宮平滑筋肉腫細胞株において ZNF217抑制が細胞増殖能・遊走能を抑制し、反対に強発現がそれらを促進することを確認した。前述のマウスモデルでは腫瘍発症速度が急速であり血行性転移を生じるまで観察が不可能であった為、腫瘍から細胞株を樹立し免疫正常マウス尾静脈から投与することで肺転移モデルを作成した。本モデルで生じた肺転移病変から複数同定された候補遺伝子のうちの一つ、ナルディライジンをコードする Nrd1について検証を行った。ヒトホモログ NRDC が、ヒト子宮平滑筋肉腫転移組織において原発病変より強く発現することを確認し、同細胞株において、癌遺伝子として機能していることを示した。これらの結果より SB トランスポゾンスクリーニングで同定された候補遺伝子カタログは、ヒト子宮平滑筋肉腫の発症・転移メカニズム解明に有用であることが示された。

図1
図2

研究の意義と将来展望

子宮平滑筋肉腫は希少疾患である為、本疾患を対象とした大規模な遺伝子プロファイルデータセットが存在せず、その発症機構に基づく新たな治療薬は極めて困難である。我々が今回見出した子宮平滑筋肉腫発症・増悪に関与するドライバー遺伝子候補カタログは、新規治療戦略の構築につながる可能性がある。

担当研究者

助教 小玉 美智子、教授 木村 正(医学系研究科 産科学婦人科学教室)

キーワード

子宮平滑筋肉腫/フォワードジェネティックスクリーニング/Sleeping beauty トランスポゾン

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。