研究

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免疫細胞移動の分子メカニズムの解明と医療への応用

招へい教員 高松 漂太、教授 熊ノ郷 淳(医学系研究科 呼吸器・免疫内科学)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)

研究の概要

生体内の狭い空間を移動する際に免疫細胞は、アクチンとミオシンによる細胞収縮運動(アクトミオシン収縮)を利用しているがその詳細な制御メカニズムは不明であった。リソソーム膜上で栄養感知や代謝制御を担う Ragulator 複合体の構成分子である Lamtor1を免疫細胞特異的に欠損させると、Lamtor1欠損細胞は細胞尾部の収縮障害により前へ進めずアクトミオシン収縮に障害をきたし、それにより、獲得免疫系が誘導されないことを見出した。さらに Ragulator 複合体はミオシン脱リン酸化酵素(MLCP)をアクチンに留める MPRIP と結合しMLCP の局在を変えることでアクトミオシン収縮を制御していることを明らかにした。

研究の背景と結果

免疫細胞は体の中を隈なく動き回り病原体の侵入を監視しているが、免疫細胞の中でも樹状細胞は非常に運動性に富んだ細胞で、病原体が侵入するとそれらを捕捉してリンパ節や脾臓に遊走して抗原をリンパ球に提示し、抗原特異的な免疫応答を誘導して病原体から宿主を守る働きをしている。樹状細胞はケモカインに反応して細胞の前方の伸長とミオシンにより細胞の後方が収縮するアクトミオシン収縮運動を繰り返して移動するが、アクトミオシン収縮の制御メカニズムについては不明であった。また、代謝に重要な mTORC1をリソソーム膜上に係留する Ragulator 複合体が、細胞の動きにも関与することが報告されていたが、アクトミオシン収縮に関与するメカニズムは不明であった。
そこで我々は Ragulator 複合体の構成分子である Lamtor1を樹状細胞特異的に欠損させたマウスを作成して、Lamtor1の樹状細胞における機能について検討した。樹状細胞特異的 Lamtor1欠損マウスは、末梢組織からリンパ節へ移動する樹状細胞の数が減少し、獲得免疫系の誘導が顕著に低下していた。さらに、生体内での樹状細胞移動を再現した実験系で樹状細胞の動きを観察すると、Lamtor1欠損樹状細胞は細胞の後方のアクトミオシン収縮障害により細胞が前へ進めないことが 分 か っ た ( 図 1 )。そ の メ カ ニ ズ ム に つ い て 検 討 を 行 な う と、Ragulator 複合体が、ミオシン活性を負に制御するミオシン軽鎖脱リン酸化酵素複合体(MCLP: myosin light chain phosphatase)をアク チ ン に 係 留 す る MPRIP(MPRIP:myosin phosphatase Rho-interacting protein)と会合することにより、MLCP の構成分子である MYPT1と MPRIP の結合が競合的に阻害され、MLC のリン酸化が亢進することが分かった。
以上から、ケモカインシグナルによって細胞に前後極性が生じると、リソソームが細胞後方に局在し、リソソーム膜上の Ragulator 複合体が MPRIP と会合して MPRIP と MYPT1の結合を阻害し、MLC リン酸化のブレーキ役である MLCP をアクトミオシン収縮の場から乖離させることにより、MLC リン酸化が亢進してアクトミオシン収縮が生じることが明となった(図2)。

図1
図2

研究の意義と将来展望

本研究では、Ragulator 複合体がアクトミオシン収縮を制御するその詳細なメカニズムを明らかにし、Ragulator 複合体による免疫応答制御の一端を解明した。Ragulator 複合体構成分子の変異がヒト免疫不全症の原因となることや、癌の浸潤や転移に際して癌細胞もアクトミオシン収縮を利用していることが知られており、Ragulator 複合体と MPRIP との相互作用は、ヒト疾患に対する新規治療標的になるものと思われる。今後、ワクチン効率の改善や、細胞浸潤に起因する炎症や自己免疫疾患、抗腫瘍免疫応答や癌転移に対する治療薬として、Ragulator 複合体と MPRIP 相互作用を標的とした細胞移動制御薬の開発へ発展することが期待される。

担当研究者

招へい教員 高松 漂太、教授 熊ノ郷 淳(医学系研究科 呼吸器・免疫内科学)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
熊ノ郷 淳
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2021/nl84_mimiyori_vol7/
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2015/201506_01/

キーワード

免疫細胞移動/アクトミオシン収縮/Ragulator 複合体/Lamtor1/MPRIP

応用分野

医療/創薬

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。