研究

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蛋白質の翻訳後変化により形成されるがん特異的抗原を標的としたCAR T細胞療法の開発

教授 保仙 直毅(医学系研究科 血液・腫瘍内科学)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)

研究の概要

我々は、広汎に発現する蛋白質である CD98hc を認識するにもかかわらず、多発性骨髄腫(以下、“ 骨髄腫 ” と言う)に特異的な結合を示す抗体を新たに単離し、それを用いた治療の可能性を示しました。骨髄腫は代表的な血液がんの一つで、治療の進歩には著しいものがあります。中でも抗体医薬は現在骨髄腫治療の要となっており、さらに最近では CAR-T 細胞など抗体を応用した様々な治療の開発が極めて盛んです。
しかしながら、未だに骨髄腫の治癒は困難であり、更なる標的抗原の同定が望まれています。本研究グループは、自作した10,000クローン以上の抗骨髄腫モノクロ―ナル抗体の中から、広汎に発現する蛋白質である CD98hc を認識するにもかかわらず、多発性骨髄腫に発現する CD98hc のみに結合する抗体 R8H283を同定し、それを用いた骨髄腫特異的な抗体療法が可能であることを明らかにしました。さらに、骨髄腫細胞と正常血液細胞に発現する CD98hc の糖鎖修飾の違いがその骨髄腫特異性の原因である可能性を示唆しました。

研究の背景と結果

多発性骨髄腫細胞表面に発現する抗原を標的としたモノクロ―ナル抗体医薬は骨髄腫患者の予後を大幅に改善しました。さらに、近年では CAR-T 細胞など抗体を応用した様々な治療の開発が進んでいます。しかしながら、未だに骨髄腫の治癒は極めて難しいのが現状です。その一つの原因としては単独の抗原を標的とした治療ではその抗原の発現を失うことにより攻撃を逃れてしまうが起こることが考えられます。そこで、更に多くの治療標的抗原を同定することが重要ですが、骨髄腫細胞でのみ働いている遺伝子やタンパク質の探索はすでに世界中で徹底的に行われ、新規治療標的の同定は極めて困難と考えられておりました。
そこで、我々は、骨髄腫細胞に結合するモノクローナル抗体を多種類作製し、新たな抗原を探すところから研究をスタートしました。骨髄腫細胞に結合するモノクローナル抗体を10,000クローン以上自作し、それらの中から、骨髄腫細胞には結合するが正常血液細胞には結合しない抗体として、R8H283という抗体を同定しました。次に、R8H283が認識している蛋白質が CD98hc であることを明らかにしました。不思議なことに、正常な血液細胞にも CD98hc は発現しているにもかかわらず、R8H283は正常血液細胞には結合しませんでした。CD98hc という蛋白質には非常に多くの N 型糖鎖が付着していることが知られています。
我々は、骨髄腫細胞に発現する CD98hc と正常血液細胞に発現している CD98hc とでは付着している N 型糖鎖が大きく異なることを発見しました。さらに、R8H283は、未成熟な N 型糖鎖が付着した CD98hc を発現する細胞により強く結合することが明らかになりました。これらの結果は、骨髄腫細胞と正常血液細胞において発現する CD98hc の N 型糖鎖修飾の違いが R8H283抗体の骨髄腫特異性の原因となっている可能性を示唆しています。さらに、マウスを用いた実験において、R8H283の投与により、正常細胞を傷害されずに、骨髄腫細胞のみが特異的に排除されることを示しました。

研究の意義と将来展望

これらの結果は、CD98hc 中に存在する多発性骨髄腫特異的抗原構造を認識する R8H283を、骨髄腫に対する新たな抗体治療あるいはそれを応用した CAR-T 細胞治療などへ用いることが可能であることをしめしています。

担当研究者

教授 保仙 直毅(医学系研究科 血液・腫瘍内科学)

キーワード

がん/多発性骨髄腫/CAR-T 細胞

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

参考URL

https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/bldon/
http://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/en/laboratory/naoki_hosen/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。