研究 (Research)
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血液セルフリーDNAによる神経免疫疾患の病態解明 (Plasma cell-free DNA analysis clarifies novel mechanism of autoimmune neurological disease )
特任講師(常勤) 木下 允、教授 望月 秀樹(医学系研究科 神経内科学) KINOSHITA Makoto , MOCHIZUKI Hideki(Graduate School of Medicine)
研究の概要
セルフリーDNA は多様な様式で細胞外に放出され血液中に存在することが知られているが、その生理的役割及び病態形成における位置づけ は 不 明 な 点 が 多 い。一 方 で、Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder (NMOSD)は、代表的な中枢神経特異的自己免疫疾患であり、高度の視神経・脊髄障害を特徴とする難治性病態である。今回、大阪大学神経内科の研究グループは、NMOSD の患者血漿からセルフリーDNA を精製し、そのメチル化パターンを次世代シークエンサーにて解読することにより、患者血漿中のセルフリーDNA は末梢血中の好中球を起源とすることを同定した。これら好中球由来のセルフリーDNA は末梢血球の1型インターフェロン産生を上昇することで、NMOSD 病態形成に寄与することが解明された。
本研究成果により、これまでNMOSD の疾患活動性を規定する因子は明らかとなっていなかったが、その根本的メカニズムの解明への道がひらけた。
研究の背景と結果
Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder (NMOSD)は、代 表的な中枢神経特異的自己免疫疾患であり、高度の視神経・脊髄障害を特徴とする難治性病態である。NMOSD では血清中に中枢アストロサイトの足突起に発現している水チャンネルであるアクアポリン4(AQP4)に対する自己抗体が産生される。現在抗 AQP4抗体は補体依存性にアストロサイト障害を来すことが知られているが、抗 AQP4抗体産生に繋がる NMOSD の自己免疫背景を形成する仕組みは解明されていない。本研究では、NMOSD患者血漿中のセルフリーDNAのメチル化パターンを次世代シークエンサーにて解読し、バイオインフォマティクス解析によりヒトゲノム公開データベースと照合することで、血漿中セルフリーDNA の起源が末梢血中好中球であることを同定した。さらに血液中セルフリーDNA は抗菌ペプチドである LL-37存在下で、末梢血球からの1型インターフェロン産生を上昇することが分かり、特に形質細胞様樹状細胞がインターフェロン産生の主要細胞集団であることが解明された。
1型インターフェロンは、自己抗体産生促進作用を持つサイトカインであることが知られており、NMOSD 患者の血球細胞では1型インターフェロンの産生が亢進していることが本研究成果にて同定された。さらに NMOSD 患者末梢血球細胞の網羅的 RNA シークエンス解析データをバイオインフォマティクス解析することで、好中球活性化経路がNMOSD 患者において主軸となっていることが本研究にて明らかとなった。
これらの結果は、自己抗体産生に繋がる NMOSD の免疫病態として1型インターフェロンの重要性を裏付けるだけでなく、その根源的因子として好中球活性化が担っていることを意味している。本研究では血液中セルフリーDNA の起源をバイオインフォマティクス解析により同定する技術を確立することで、新規病態機序の解明を行うことが可能となった。
研究の意義と将来展望
本研究ではセルフリーDNA の放出起源となる細胞や組織を同定する技術をメチル化パターンに着眼することで可能とし、その源となる細胞腫を同定することで中枢神経特異的自己免疫疾患の新規病態メカニズムを解明した。セルフリーDNA は多彩な疾患の病態機序に関与していることが予想され、本研究成果は神経免疫領域を超えた多様な疾患への普遍的応用が期待される。
担当研究者
特任講師(常勤) 木下 允、教授 望月 秀樹(医学系研究科 神経内科学)
本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
望月 秀樹
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2018/2fva21/
キーワード
セルフリーDNA/自己免疫疾患/バイオインフォマティクス/神経疾患
応用分野
医療・ヘルスケア/バイオインフォマティクス