研究

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無線・無給電MEMS振動子センサー

教授 荻 博次(工学研究科 物理学系専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

独自考案した無線振動子センサー技術を、多チャンネルかつバッテリーフリー(無給電)のセンシングシステムに展開し、半永久的計測という測概念のもと、疾患診断だけでなく、複合的な生体分子反応の理解の深化、人がアクセスできない箇所でのガスセンシング、構造物に埋め込んでの健全性モニタリング、生きた動物内の長期間にわたる生体信号モニタリング等、幅広い展開を可能とする振動子センサーシステムを確立し、革新的振動子デバイスの研究拠点を構築することを目指している。 

研究の背景と結果

癌や神経変性疾患、ウィルス性疾患等においては早期発見が極めて重要である。血液検査や尿検査によって罹患初期に分泌されるマーカー物質を検出できれば、完治率が上がり、結果、膨大な医療費の削減につながる。また、カーボンニュートラルの実現に向けて水素社会の到来が確実視されており関連技術の進化が要求されている。脱炭素エネルギーとしての水素の重要性は記述するまでもないが、爆発性も広く認識されており水素ガスセンサーの高性能化、特に、原子力発電所など人がアクセスできない箇所での無給電(バッテリーフリー)計測については、特に重要な課題である。さらに、各国においては社会インフラの老朽化が極めて深刻な問題となっている。給電を必要とせず構造物内部の応力等をリモートでセンシングするデバイスの開発は、今後建設される社会インフラ構造物の健全性モニタリングに多大に貢献する。以上のように、安全・安心・健康な社会の構築において、高感度・無線・無給電を実現するセンシングが熱望されているが、振動子センサーこそがこれらの条件を全て満足するセンサーであると考えられる。
振動子センサーは、マイクロベル(振動子)の共振周波数が、 様々な要因により変化する現象を利用し、共振周波数変化から対応する要因を検出するセンサーである。図1にいくつかの例を示す。振動子表面に標的タンパク質等を捕捉することにより、振動系の有効質量が増加して共振周波数は低下する。この原理は無標識のバイオセンサーとして用いることができる(左上)。外力によって振動子形状が変化しても共振周波数は変化する。この現象を利用すると応力センサーとなる(左下)。弾性定数が温度の影響を受けやすい振動子を用いると、温度変化により共振周波数が変化するため、温度センサーにもなる(右上)。表面に感応膜を成膜し標的ガスを吸着させると、質量増加だけでなく表面力の発生による曲げ変形が生じ、やはり共振周波数が変化する。この原理はガスセンサーとして利用できる(右下)。例えば図2は、我々が独自に開発した MEMS 振動子水素ガスセンサーの応答である。1 ppm という極低濃度の水素ガスの検出も実現している。 

図1 振動子センサーの用途の例
図2 MEMS 振動子センサーによる水素ガス検出の例

研究の意義と将来展望

本技術シーズは、超高感度だけでなく、バッテリーフリーかつ数十メートルでの遠隔計測を可能とする。感染症や様々な疾患に対する遠隔診断や、原子力発電所等人の出入りが困難な箇所での水素ガス濃度の半永久計測、高速道路やビル等のコンクリートに埋め込んで、半永久的に内部応力を計測する非破壊検査用のセンサーとしても機能し、安全・安心・健康な未来社会の構築に貢献することが期待される。

担当研究者

教授 荻 博次(工学研究科 物理学系専攻)

キーワード

QCM/無線/無給電/バイオセンサー/ガスセンサー

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬/セキュリティ

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。