研究

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外来遺伝子発現量を調節できる新規LCMVベクター開発

特任准教授(常勤) 岩﨑 正治(微生物病研究所 新興ウイルス感染症研究グループ)

  • 医歯薬生命系
  • 微生物病研究所

研究の概要

LCMV(リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス)は、5′末端に cap 構造を持つが、3′末端はポリ A 付加を受けない mRNA を生成する。我々はこれまでの研究で、ウイルスゲノムの遺伝子間領域(intergenic region, IGR)に由来する、ポリ A 付加を受けない3′-UTR がウイルス mRNAの翻訳効率を制御することを明らかにしてきた。
本研究では、3′-UTRの中でも、ORF 直下のごく狭い領域(proximal region, PR)が翻訳制御に特に重要な役割を果たすことを見出した。さらに、IGR の PR に相当する配列を改変することで、上流に配置したレポーター遺伝子発現量を変化させられることを、組換え LCMV を用いた解析で明らかにした。

研究の背景と結果

アレナウイルス科には、ヒトに致死的な出血熱症を引き起こす病原体が複数存在する。中でも、ラッサ熱の原因となるラッサウイルスが人類に対する影響が最も大きい。ラッサウイルスは毎年西アフリカで推計約90万人に感染し、入院が必要な患者の致死率は約15% と非常に高い。一方で、全世界に分布し、アレナウイルスのプロトタイプとされる LCMV は、LASV と遺伝学的に近縁であり、biosafety level-2(BSL-2)施設で取扱い可能なため、LASV のモデルウイルスとしても利用されている。
我々はこれまでの研究で、IGR に由来する3′-UTRがウイルス mRNA の翻訳効率を制御することを明らかにし、IGR の改変によるラッサウイルス弱毒生ワクチン株の作製に取り組んできた。本研究では、ウイルス mRNA の翻訳を制御する3′-UTR 配列を詳細に解析するため、翻訳効率の高い LCMV ヌクレオプロテイン(NP)mRNA 及び翻訳効率の低い糖タンパク質前駆体(GPC)mRNA のUTR 配列でレポーター遺伝子 ZsGreen の ORF 配列を挟んだ配列をもつウイルス mRNA 様 RNA(vlmRNA)を用いたレポーターアッセイシステムを構築した(図1)。3′-UTR 配列を NP mRNA と GPC mRNA間で入れ替えたキメラ vlmRNA を用いた解析を行い、NP mRNA のORF 直下のわずか10塩基の配列及びその2次構造が翻訳を促進することを明らかにした。レポーター遺伝子直下の PR 配列を改変した組換えLCMV(図2)を作製したところ、レポーターアッセイの結果と一致したレポーター遺伝子の発現量の変化が見られた(図3)。すなわち、PR配列を改変することで、搭載した外来遺伝子発現量を調節できることが明らかになった。

図1
図2
図3

研究の意義と将来展望

LCMV には長期間の細胞性免疫を誘導する特性があり、がん免疫療法のウイルスベクターとしての利用が期待されている。本研究の成果は、PR 配列の改変によって外来遺伝子発現量と弱毒化の程度を細かく調節(fine-tuning)した LCMV ベクター開発に応用できる。さらに外来遺伝子発現量を調節できる LCMV ベクターは、iPS 細胞作製のような、外来遺伝子発現量の厳密な制御が必要なアプリケーションへの利用が期待される。

担当研究者

特任准教授(常勤) 岩﨑 正治(微生物病研究所 新興ウイルス感染症研究グループ)

キーワード

ウイルスベクター/非翻訳領域/翻訳制御

応用分野

遺伝子導入/免疫療法/ワクチン

参考URL

https://iwasaki-lab.biken.osaka-u.ac.jp

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。