研究

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災害ボランティアのグループ・ダイナミックス

教授 渥美 公秀(人間科学研究科)

  • 人文学社会科学系
  • 人間科学研究科・人間科学部

研究の概要

日本では1995年阪神・淡路大震災の時(私自身は当時神戸大学助教授でした)が災害ボランティア元年と呼ばれ、それ以来、災害が発生すればボランティアが駆けつけるということが社会に定着しました。災害ボランティア活動は、直後の救援活動から復興支援や地域防災活動へと拡大されています。
私は、1995年以来、災害ボランティアの心理的要因、社会的要因に注目し、現場での長期的なフィールドワーク(KOBE、新潟県小千谷市、岩手県野田村など)を通して、人々の心理と現代社会との関係の動態を研究してきました。成果は、国内外の論文として発刊するとともに、書籍にて公刊してきました。災害と共生研究会を主宰し、電子ジャーナル「災害と共生」を編集し、認定 NPO法人日本災害救援ボランティアネットワークの副理事長を兼務しています。 

研究の背景と結果

(1)被災地のリレー 過去に被災した地域の人々が、現在被災して苦しんでいる地域に救援に駆けつける。このことが繰り返されると、過去の被災地から現在を経由して未来へと救援のネットワークが広がるのだろうか。この現象を被災地のリレーとして位置づけ、リレーを行っている人々へのインタビュー調査(Atsumi, 2014)、発生機序に関する理論的研究(渥美、2014)などをもとに、社会調査(Daimon &Atsumi, 2018a)、シ ミュ レー ショ ン 研 究(Daimon & Atsumi,2018b)を展開してきた(図1)。その結果、被災地のリレー現象は、個別の事例にとどまらず、全国レベルで実証的にも見られ、救援のネットワークが拡大する契機となりうることが示された。
(2)防災といわない防災 頻発する災害に向けて地域防災に努めるべきだとは言われるが、現場ではマンネリ化が指摘される。防災、防災と声高に叫ぶだけでは広く住民の参加を得ることはできない。そこで、災害 NPO が中心となって、子どもたちを探検隊に仕立て上げて、探検の過程で防災施設などを巡り(写真1)、地域の地図を描くという活動を発案した。狙いは、子どもたちの保護者が子どもたちの探検を助けようと、事前に地域の防災資源を巡る動きを導くことである。いわば、(探検隊なので)防災とは言わずに(保護者に)防災活動に参加してもらうので、防災といわない防災活動となった。日本損保協会、朝日新聞、ユネスコなどの協力を得て、全国マップコンクールが15年にわたって開催されてきた。
(3)まちづくりに織り込まれた防災 少子高齢過疎化が進む地域では、防災といわない防災も現実的ではない。ただ、地域社会では地道なまちづくり活動が展開されている場合が多い。まちづくり活動の1つ、例えば、地域の祭りに地域防災活動の要素を採り入れる試みである。兵庫県上郡町で実施した事例では、祭りへの参加を躊躇していた高齢者、障害者などが移動手段の提供などによって参加したこと(写真2)が、地域での早めの避難行動を訓練したことと同等であるという気づきが拡がり、さらに多様な人々をも含んで誰一人取り残さない防災活動へと展開を見せている。 

図1 被災地のリレー
写真1 ぼうさい探検隊
写真2 白旗城祭り 高齢者障がい者特別席

研究の意義と将来展望

災害ボランティアは、ただ無条件に被災者の傍にいて、返礼を期待せずに贈与します。これは効率性や有効性にばかり囚われた日常の中では忘れられている行為の存在を告げています。災害ボランティアに関する研究は、災害後の新たな社会構築の場面を通して、新しい人間関係の可能性を考察しデザインしていきます。ここに全ての人々が生きがいを育むことのできる社会を創造していく道筋の1つを見据えておきたいと思います。

担当研究者

教授 渥美 公秀(人間科学研究科)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2017/g001890/
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2017/g001889/

キーワード

災害ボランティア/グループ・ダイナミックス/被災地のリレー/防災といわない防災/まちづくりに織り込まれた防災

応用分野

ボランティア活動/地域防災/災害救援/復興支援

参考URL

http://www.nvnad.or.jp/index.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。