研究

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超高齢社会を視野に入れた老年学の枠組みによる長期縦断研究SONIC

教授 権藤 恭之(人間科学研究科)

  • 人文学社会科学系
  • 人間科学研究科・人間科学部

研究の概要

今後ますます進展する社会の高齢化を鑑みると、高齢者研究のなかでも特に高い年齢の人たちを視野に入れた研究が求められる。そこで私たちは、大阪大学の医学系研究科、歯学研究科そして、外部の共同研究機関と共同で老年学の枠組みに基づいた長期縦断研究 SONIC を開始した(図1)。SONIC 研究の目的は高齢期から超高齢期にかけての加齢の様態、健康長寿および幸福長寿の関与要因を解明することである。
これまで、ミクロレベルでは、認知機能の低下のマーカーとなりうる血漿タンパク質糖鎖の同定、マクロレベルでは、地域環境や社会関係資本と精神的健康の関係まで、幅広い領域における研究成果を報告している。

図1 SONIC 研究の概要

研究の背景と結果

これまでの高齢者を対象とした疫学研究の多くは、医学部が主導してきた。そして、それらの研究から、健康の身体的側面では疾患や寿命の関連要因、健康の心理的側面ではうつや認知症というネガティブな側面に関する成果が多く報告されてきた。しかし、高齢期の幸福感といったポジティブな側面に関連する要因に関する研究は少ない。我々は2005年に85歳以上の超高齢者では、身体的機能や日常生活能力が低下しても、心理的健康が低下しないことを報告した。このように複数の研究領域を跨ぐ複雑な関係をより詳細に解明するために2010年に大阪大学を中心に外部の研究機関と共同で、老年学の枠組みに基づく研究として SONIC を開始した。調査対象は3歳幅で構成される年齢コホート70、80、90歳群で、これまでに、それぞれ1229名、1213名、807名が参加した。参加者の方々を3年ごとに調査に招待し、生理学、医学、歯学、栄養学、心理学、社会学に関する様々な検査や質問に回答していただく(表1)。
SONIC 研究の最も顕著な特徴は、身体機能と心理的健康の乖離の背景に、老年的超越と呼ばれる加齢に伴う心理的な変化が存在するとの仮説に基づいて研究を進めている点である。横断的分析では、身体的健康や認知機能は、高年齢群では大きく低下するが、精神的健康や健康状態に対する主観的な評価は年齢間で差が見られないこと、老年的超越は高い年齢群ほど高くなることが明らかになった(図2)。また、老年的超越は、どの年齢群でも精神的健康と関係しており、年齢が高くなればなるほどその関連が強くなることも明らかになった。追跡調査からは、老年的超越は70歳から80歳にかけて大きく上昇するが、80歳以降にはあまり上昇しないことなどが分かってきた。さらに、老年的超越は客観的状況と乖離が生じることがある口腔機能に関するQOL とも関連することが分かった。このように老年的超越の発達が、高齢者の Well-being と関連することが確認されている。

表1 SONIC 研究における主な測定指標
図2 加齢に伴う老年的超越の上昇とその影響

研究の意義と将来展望

ヒトの加齢は身体・生理学的、心理的、社会的側面が相互に影響しあいながら生じる。したがって、その複雑な過程を解明するためには学際的、老年学的な枠組みが欠かせない。また、ヒトの加齢を考えると、長期にわたって縦断的にデータを蓄積することが求められる。さらに、様々な機能の低下が進行する超高齢期では、幸福感に関与する心理的な適応プロセスの解明が欠かせない。SONIC 研究では老年的超越と呼ばれる加齢に伴う心理的変化に注目し、幸福長寿への関与に関する数多くの成果を上げてきた。今後も調査を継続し、人生100年時代の理想的な学際的加齢モデルの構築を目指している。

担当研究者

教授 権藤 恭之(人間科学研究科)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2019/0tkidf/

キーワード

超高齢者/老年的超越/幸福感

応用分野

医療・ヘルスケア/幸福長寿/高齢社会/百寿者

参考URL

http://www.sonic-study.jp/
http://gerontology-osaka.jp/index.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。