研究 (Research)
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どうすれば就業率を高められるか?どうすれば人々の労働意欲を高められるか? (How can we increase employment rates? How can we raise work incentives?)
教授 小原 美紀(国際公共政策研究科) KOHARA Miki(Osaka School of International Public Policy)
研究の概要
人々の働く意欲を高めるためにはどうすればよいか。失業者の職探しや就業者の労働意欲を高める環境整備とは何か。私は、社会政策や環境が個人の労働供給に与える影響をデータ解析により明らかにしている。これまでの分析で、政府や自治体の支援策が若者の求職活動を活発にすることや、企業の情報提供の在り方で労働者と企業のジョブマッチングが変わることがわかった。
また、就業者については、労働環境の悪さが本人も気付かないうちに労働意欲の減退や生産性の低下、健康状態の悪化につながることを指摘してきた。さらに女性の労働に目を向けて、日本では既婚女性が柔軟に働き方を変えることで、家計が被る経済ショックを緩和させていることを示してきた。
研究の背景と結果
企業は自社にマッチした労働者を雇用したい。労働者は自分にマッチした企業で働きたい。そして、双方のマッチングが良いほど、企業は労働者から高い生産性を引き出すことができ、社会全体の厚生が高くなる。ならば、どうすれば企業と労働者のジョブマッチングを高めることができるか。私は、おもに労働者の労働供給に着目しながら、ジョブマッチングの質と量を高める要因を分析している。
求職者は留保賃金よりも高い賃金の職業で働こうとする。この賃金には働かなくても得られる賃金水準が影響する。例えば、失業中に得られる給付金や、働かなくても得られる収入が高い人は働こうとしないだろう。家計状況も大切だ。家族の収入が高ければ働く意欲は下がるだろう。家事の必要性が高ければ働けないかもしれない。働く本人を取り巻く政策や環境が働く意欲に影響を与えることは就業者にも当てはまる。私の研究は、このような求職や労働継続、(家事労働を含む)労働時間配分の決定要因を、日本独特の特徴に着目したデータ解析によって探っている。
研究の特徴は、労働供給をする本人だけでなく周囲の人や環境、文化的背景から受ける影響を考慮している点にある。また、テーマに応じて適切なデータを選び、統計的手法の特徴を活かした分析を試みている点も特徴である。これまでの分析では、家族の労働供給を経年で調査している特別なデータや、行政データと呼ばれる日本全国の失業者の登録情報、実際の就職支援機関や企業での独自調査・実験データを用いてきた。分析者には見えない分析標本の特徴や特殊性が分析結果にバイアスを与え、真の政策評価を見誤ることを防ぐためである。分析により、日本の既婚女性や若年失業者は、これまでに考えられてきた以上に、周囲の環境や社会政策の影響を受けること、労働意欲だけでなくそれにつながる健康状態の良さが人々の労働行動を考える時に重要であることがわかった。
研究の意義と将来展望
私の研究は、日本全国の様々な立場にある人の、様々な時代の労働供給を分析対象としている。なかでも、就業経験が少なく技術を持たない若年層や、結婚や出産により就業を中断された既婚女性の労働に私は関心を持っている。
若年も女性も日本では十分に活かされていない労働力であり、労働市場で弱い立場に置かれることが多い。彼らにとって「間違いの少ない」政策分析をするためにも、教育現場での実験や、日本特有の環境変化を使った社会実験、家族や若者の情報を長期的に捉えたデータを使った新しい分析を進めたい。
担当研究者
教授 小原 美紀(国際公共政策研究科)
※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2018/pcq6pb/
キーワード
労働供給/ジョブマッチング/積極的労働市場政策/職場環境/家族の時間配分
応用分野
労働/メンタルヘルス/効果検証