研究

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人文社会科学の知見を活かしたELSI共創研究

センター長 岸本 充生(社会技術共創研究センター(通称 ELSIセンター))

  • 全学・学際など
  • 社会技術共創研究センター

研究の概要

AI をはじめとする新規科学技術を研究開発し社会実装するためには、技術そのものの課題に加えて、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)と呼ばれる課題群に対処する必要がある。つまり、イノベーションのためには、狭い意味での「科学技術」だけでなく、ELSI へ対処するためのツールやノウハウ、手順といった「社会技術」をも同時に研究開発しなければならない。
社会技術共創研究センター(通称、ELSIセンター)では2020年4月の発足以来、学内・学外の様々な組織と連携し、それらの中から多様な ELSI 共創研究が誕生している。

研究の背景と結果

ELSI は 倫 理 的・法 的・社 会 的 課 題(Ethical, Legal and Social Issues)の頭文字で、もともと1990年に米国でヒトゲノムを解読するプロジェクトが開始された際に、その社会的な影響をあらかじめ予測し、事前に対応しておくことを目的として開始された研究プログラムの名称であった。日本でも生命科学の分野では ELSI 研究は実施されていたが、近年、データビジネスや AI 利活用の分野などでいわゆる「炎上」が相次いだことや、技術革新のスピードがますます増していることから、あらゆる新規科学技術について、研究開発から社会実装までのライフサイクルを見据えて、悪用・誤用も含めた様々な課題を ELSI として、事前に抽出し、事前に対応することが必須となっている。特に、技術開発のスピードが増す一方で、法規制の改正が間に合わないケースも増えており、また新しいものに対する世論も不安定であることから、ELSI の課題を E(倫理)、L(法)、S(社会)に便宜的に分けると、相対的に E(倫理)の役割が増していると考えられる。AI の利活用にあたって倫理原則を定める事業者が増えていることもこのことを反映している。
また、生命科学以外の分野についても研究倫理審査プロセスを導入しようとしている事業者も増えている。しかし、企業組織には E(倫理)を担当する人材や部署が存在しないケースが多い。
こうした背景のもとで、社会技術共創研究センター(ELSI センター)は2020年4月の発足以来、様々な事業者や事業者団体から相談を受け、それらの中から実施している共同研究において、データ利活用に関する行動指針やプライバシーポリシーの策定、プロジェクトを対象としたプライバシー影響評価(PIA)の実施、ELSI 講義や研修の実施、研究倫理審査の高度化、AI 倫理原則やチェックリストの作成、具体的な技術を対象とした市民参加型ワークショップやテクノロジーアセスメントの実践などを行ってきた。これらの成果の一部は ELSI センターウェブサイトにおいて公開している。

研究の意義と将来展望

新規科学技術を社会実装する際には、現行の法規制を遵守するだけでは社会に受容されないケースも多く、逆にまた現行の法規制では十分に対応できないケースも多い。
これらは、技術革新のスピードが法規制の改正のスピードを上回ることの必然的な帰結である。人文社会科学の知見を科学技術イノベーションに活用する取り組みは、第6期科学技術・イノベーション基本計画において「総合知」として取り上げられている。また、人文社会科学の分野における産学共創はこれまであまりなく、潜在的なニーズはきわめて大きいと考えられる。ELSI センターには、ELSI 共創の知見が蓄積されつつあり、得られたノウハウを形式化・可視化しておくことを目指している。

担当研究者

センター長 岸本 充生(社会技術共創研究センター(通称ELSIセンター))

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2023/nl88_research02/

キーワード

テクノロジーアセスメント/倫理的・法的・社会的課題(ELSI)/リスクガバナンス/プライバシー影響評価

応用分野

あらゆる新規科学技術/研究倫理審査/社会実装プロセス

参考URL

https://elsi.osaka-u.ac.jp/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。