研究 (Research)
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拡張現実を用いた視覚情報提示のヒューマンファクター研究 (Human factors research on visual information presentation using augmented reality)
教授 篠原 一光(人間科学研究科) SHINOHARA Kazumitsu(Graduate School of Human Sciences)
研究の概要
現実世界に人工的に生成した映像を重ね合わせて表示する拡張現実(AR)による視覚情報提示が、自動車運転や各種作業用の視覚インタフェースとして広く用いられるようになりつつある。一方、このような情報提示の使用が利用者の注意や認知とどのように関係するのかは十分に検討されていない。本研究では視覚情報を単眼で視認する方法や、視覚情報の提示を作業対象の位置に追従させる方法を提案し、これらの方法と使用時の作業者の注意・認知について認知心理学的実験手法による検討を行った。
研究の背景と結果
ヘッドアップディスプレイ等を用い、現実空間の上に人工的な映像を重ね合わせて同時に視認可能にする拡張現実情報提示は、大きな視線移動なしに多様な視覚情報を利用者に効率的に提示することができる。その一方で、映像は現実空間とは異なる距離で提示されるため視認しにくくなる可能性や、映像が現実空間で必要な視覚認知を妨害する可能性が考えられる。
この問題への対応策として、映像を単眼にのみ提示する方法が提案された(図1)。単眼提示によって映像の距離が曖昧に知覚されて視認時の不自然さが軽減されること、片方の目には映像が提示されないことから、現実空間の認知を人口映像が妨害する可能性が低くなることが期待された。拡張現実における単眼提示を実現するためにハーフミラーと偏光フィルタを組み合わせた実験系(図2)を作成し、両眼提示と単眼提示を比較する実験したところ、単眼提示を用いたほうが課題の成績がより高くなることが示された。また認知心理学において視覚的選択的注意の実験課題としてしばしば用いられる「変化の見落とし」を用いた研究では、単眼提示を用いた場合に変化の見落としが生じなくなることを示した。また、単眼提示の有意性がどのような知覚的・認知的メカニズム(図3)に基づいて生じるかについて脳波測定を用いた検討を行っており、単眼提示では認知段階での情報処理が減衰する可能性が示されている。
拡張現実情報提示では、映像の提示位置も作業効率に影響する。特に、必要な情報を参照しつつ現実空間内での作業を進めるような作業場面では、現実空間での作業対象の近くに情報が提示されることが望ましいと考えられる。そこで指定された対象物を探す視覚探索課題を用いて実験を行い、探す対象の情報を探索空間内で自由に動かせるようにしたところ、探索対象の情報が常に同じ場所に表示される条件で比べてより作業成績が高く、精神的負担が低く評価されるという結果が得られた。
研究の意義と将来展望
拡張現実を用いた視覚情報提示は、その適用範囲が多種多様な作業に広がっていくことが予想される。利用者にとって人間特性に適合した情報提示方法を見出し、視覚情報提示をより使いやすいものに改良していくことが必要である。
また、今後の技術開発により従来なかった新しい提示手法が登場し、利用者のヒューマンファクターに関する問題が生じる可能性もある。本課題は、工学的な技術開発と、利用者の行動や心理学的特性に関する研究が密接に連携すべき研究課題である。
担当研究者
教授 篠原 一光(人間科学研究科)
キーワード
拡張現実/情報提示/注意/認知心理学/ヒューマンファクター
応用分野
ヒューマンインタフェース/デザイン/ユーザビリティ