研究 (Research)
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メンタルヘルス改善・維持のための認知理論・行動理論、行動経済学に基づく包括的予防・介入システムの構築 (Comprehensive prevention and intervention systems based on cognitive and behavioural theory and behavioural economics for improving and maintaining mental health)
准教授 平井 啓(人間科学研究科) HIRAI Kei(Graduate School of Human Sciences)
研究の概要
メンタルヘルス不調は大きな社会課題である。それは、ストレスを自覚することの難しさ、正しい知識の理解不足、効果的なセルフケアが実施されていないこと、メンタルヘルスの専門機関などのプロケア利用が不十分であること、職場などの環境改善が進まないことで生じている。
本プロジェクトでは、対象者の「脳疲労」の程度と種類に応じて、適切なタイミングでの専門機関受診などのプロケアの利用に加えて、適切な休息・睡眠時間の確保などの各種セルフケアなど「様々な適応的な行動」を「適切に組み合わせて」とることができるような認知理論・行動理論、行動経済学に基づく包括的予防・介入システムの一部となる認知行動コンサルテーション・プログラムを開発し、その有効性の検証を行った。
研究の背景と結果
近年、人々のメンタルヘルス不調は大きな社会課題であり、ストレスチェック制度の導入により、ストレスの程度をスクリーニングし、結果のフィードバックを行うことや高ストレス者に医師面談の利用を勧奨することでセルフケアの促進を行う。
しかし、実際に医師の面談を受けた労働者の割合は0.5%と低い。ストレスやつらさといった心理的状態であるため可視化することができない上に、高ストレス状態が判明した場合には、医療機関の受診という単一の行動だけでは問題解決とならず、適切な休息・睡眠時間の確保などの各種セルフケアと専門機関受診などのプロケアの利用など「様々な適応的な行動」を「適切に組み合わせて」とることが必要となる。
これまでの研究で、がん検診などの健康行動の変容のためにソーシャルマーケティング・行動経済学の方法を応用し、対象者を複数の集団に分類、すなわちセグメンテーションを行い、セグメントの特徴を考慮したフレーミング効果を狙ったメッセージによるナッジ(肘で小突くという意味の行動変容のための仕掛け)開発を行い、その有効性を明らかにした。また専門家による面談をデフォルト化することや、「ストレス」や「うつ状態」などの代わりに「脳疲労」というフレームを使うことでスティグマを回避し、早期受診行動を促進させるという戦略の有効性が示唆されている。
これらの知見をもとにして、高いストレス状態であったリモートワーク者を対象に、脳疲労状態の程度と種類による分類、ならびに認知行動特性(情報処理方法の特徴)による分類の2軸のセグメンテーション・アルゴリズムを開発し、セグメントに対応したストレスマネジメントに関する心理教育コンテンツ(動画・テキスト)を提供する認知行動コンサルテーション・プログラムを開発した(特許出願中)。
オンラインでの無作為化比較試験を行った結果、セグメンテーションによるストレス状態の改善効果は見られなかったが、高度脳疲労者においては心理教育によるうつ状態の改善が見られた。
研究の意義と将来展望
これまでのメンタルヘルス不調に関連した研究や取り組みは、「正しい知識」の普及を目的とするものが中心であった。しかし、本プロジェクトでは、「正しい知識」ではなく、行動変容に直結する「実践的な知識」を、それを必要な人々の認知と行動の特徴に応じて、効率よく獲得できるような包括的予防・介入システムの構築を目指すことに特徴がある。
さらに、このシステムを COVID-19の流行により世界的にも行われるようになったメンタルヘルスに関連したデジタルヘルスの技術と融合させることで、さらに大規模でインタラクティブなシステムに発展し、社会的なインパクトをもたらすことができると考えられる。
担当研究者
准教授 平井 啓(人間科学研究科)
キーワード
行動変容/認知行動療法/心理教育/ナッジ/セグメンテーション
応用分野
メンタルヘルスケア/心理教育/効果検証/行動変容