研究 (Research)
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植物の篩部が作られるしくみ (Phloem formation mediated by transcriptional control and intercellular communication)
教授 柿本 辰男、助教 銭 平平(理学研究科 生物科学専攻) KAKIMOTO Tatsuo , QIAN Pingping (Graduate School of Science)
研究の概要
篩部(しぶ)は植物の光合成産物などを運ぶ植物にとって必須の組織ですが、その形成制御の仕組みはよくわかっていませんでした。篩部が形成される細胞で発現する複数の Dof タイプ転写因子 (phloem-Dof) が篩部の細胞分化を誘導するのみならず、篩部構成細胞の形成を阻害する分泌性ペプチド分子 CLE25, 26, 45の合成も誘導すること、CLE25,26,45はBAM 受容体 -CIK 共受容体複合体によって受容されて phloem-Dof を減少させることにより本来の篩部形成位置の周りの細胞が篩部にならないようにしていることが明らかになりました。
研究の背景と結果
篩部は光合成産物を運ぶ通路である篩管と、篩管の生命活動を助ける伴細胞からなります。篩管は核を失った細胞が篩孔と呼ばれる小さな孔を介して一列につながったもので、生きていながらも栄養分を輸送します。伴細胞は篩管にはりついて栄養分の積み込み・積み下ろしに関わるだけでなく、原形質連絡と呼ばれる小さな孔を介して核を持たない篩管の生命活動を支えています。この篩部の形成に関しては、篩部形成のマスター調節因子として働く転写因子も、篩部を正しい場所に形成させる仕組みもわかっていませんでした。まず、篩部で特異的に発現している転写因子を候補として選びました。これらの候補遺伝子を植物全体で発現させたときに本来は篩部ではないところにも篩部特有の遺伝子発現を誘導できる遺伝子を探すというスクリーニングによって、一群の Dof タイプ転写因子(phloem-Dof)を見出しました。phloem-Dof は篩管も伴細胞も誘導できましたが、篩要素になるか伴細胞になるかの運命がどのように分けられるかは今後の課題です。次に、phloem-Dof 遺伝子を植物全体で発現させたときに遺伝子全体の発現パターンがどのように変化するのかをマイクロアレイを用いて解析しました。これらは篩部形成に関わると知られている遺伝子の発現量を増加させただけでなく、篩部形成を抑制することが知られていたペプチド性シグナル分子 CLE25, 26, 45の発現量も増加させました。これらの CLE は通常は篩部で発現しています。CLE25, 26, 45遺伝子やこれら CLE の受容体遺伝子を破壊しても同じように篩部領域が拡大しました。また、CLE によって活性化された受容体は phloem-Dof タンパク質を不安定化することで側方阻害の機能を発揮していることもわかりました。さらに、篩部になるべき細胞で作られた CLE はその細胞での篩部への分化を抑制しない仕組みもわかってきました。
研究の意義と将来展望
今回の発見は、phloem-Dofは篩部細胞形成制御の最上位で働くこと、転写調節と細胞間のコミュニケーション分子の協調作用が正しい配置で篩部を作り出すことを示したものであり、植物の発生の仕組みの一端を明らかにしたものと言えます。本研究において篩部形成の制御機構が明らかとなり、突然変異や遺伝子操作で篩部になる細胞を増やしたり減らしたりすることができるようになりました。将来は、篩部形成の人為制御によって作物などの栄養分の分布を制御するような技術につながる可能性があるかもしれません。
担当研究者
教授 柿本 辰男、助教 銭 平平(理学研究科 生物科学専攻)
キーワード
篩部/Dof/転写因子/CLE/ペプチド
応用分野
農業
参考URL
https://kakimoto0.wixsite.com/kakimoto-lab
https://researchmap.jp/read0079052
https://researchmap.jp/qianpingping2013