研究 (Research)

最終更新日:

高度な分岐構造をもつ多糖誘導体の分子認識 (Molecular recognition of polysaccharide derivatives with highly branched architecture)

教授 寺尾 憲(理学研究科 高分子科学専攻) TERAO Ken (Graduate School of Science)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 理学研究科・理学部 (Graduate School of Science, School of Science)

English Information

研究の概要

剛直な棒状鎖からなる高度に分岐した多糖誘導体を合成し、有機溶媒中での分子形態を散乱法、粘度法により調べた。得られた回転半径と固有粘度は、同じモル質量をもつ線状鎖試料よりもはるかに小さいことが分かった。また、この多分岐試料をシリカ粒子に担持させたキラルカラムは多くの低分子ラセミ化合物に対してキラル分離能を持つことが確認された。そのキラル分離能が線状鎖とは異なることから、分岐構造が分子認識に影響を与えることも明らかにされた。多分岐構造により、立体構造が制限され剛直ならせん構造にひずみを生ずるためであると考えられる。

研究の背景と結果

溶液中における高分子の振る舞いは、セグメントと呼ばれる構成単位の単純なつながりとして整理されてきた。このため高分子の分岐構造などのアーキテクチャーの違いがセグメントの性質に及ぼす影響は無視されてきた。しかし最近、我々は剛直な環状高分子のセグメント間やセグメント―低分子間の相互作用が線状鎖と大きく異なることを、おもに多糖誘導体の研究から見出した。
多糖誘導体は、食品、日用品から繊維・樹脂材料に至るまで幅広く利用されているが、中でも、多糖のカルバメート誘導体は、医薬品に用いられる低分子化合物の精製、そして純度測定に不可欠なキラル分離カラムの分離担体として広く用いられている。多糖誘導体のキラル分離能は、多糖主鎖のらせん構造に由来するため、高分子鎖のアーキテクチャーの違いがらせん構造に影響を及ぼす場合、その分離能にも違いが出ることが期待された。そこで本研究では、市販の高度分岐環状デキストリンを用いてカルバメート誘導体を合成することにより、多分岐構造を持つ多糖誘導体試料を得た。上述のキラル分離能の違いは、化学構造の異なる2つの異なるカルバメート誘導体(図2)どちらにも見られた。
現在、グリコーゲンなど、鎖長、分岐構造の異なる多糖誘導体に研究を展開している。また、合成高分子からなる分岐高分子についても研究を進めており、相分離の結果生じるナノ構造に分岐構造が重要な影響を与えることも発見している。剛直鎖からなる分岐・環状高分子はまだまだ研究が少ないが、最近、新規な有機化学反応を活用した、これまでにない結合様式を持つ高分子が多く合成されており、その中には剛直な高分子も多く含まれる。これらの高分子には様々な新規な機能が期待されるが、その機能性を最大限に発現させるうえで、分岐・環状構造の導入が有効な手段であると期待している。

図1. (a) 高度分岐環状デキストリン誘導体の化学構造 (b) 分岐点付近の立体構造
の模式図
図2. キラルカラムの模式図とキラル固定相に用いた多糖誘導体の化学構造

研究の意義と将来展望

多分岐高分子は、同等の分子量をもつ線状高分子と比較して、分子のサイズがはるかに小さくなるため、溶液の粘度も線状鎖と比較して低くなるという特徴がある。この粘性率の比は、剛直鎖になるとより顕著になり、本研究のケースでは固有粘度が最小で線状鎖の1/40倍となった。
多分岐高分子の低い粘性率は、高分子溶液の取り扱いを容易にする。また、剛直多分岐鎖のらせん構造のひずみは、キラル分離のほかに溶媒分子との相互作用にも顕著な影響を与え、線状鎖が完全溶解する温度・濃度領域で、多分岐鎖の溶液は相分離することも確認された。多分岐構造を取り入れることにより、線状鎖のみからは発現し得ない機能の開拓が期待される。

担当研究者

教授 寺尾 憲(理学研究科 高分子科学専攻)

キーワード

多糖誘導体/分岐高分子/剛直性高分子/分子認識/キラル分離

応用分野

医療・ヘルスケア/分離精製

参考URL

https://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/terao/
https://researchmap.jp/kenterao

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。