研究 (Research)

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糖鎖を用いた抗体の動態・活性の制御 (Regulation of antibody dynamics and potency by glycan modification)

助教 真鍋 良幸、准教授 樺山 一哉、教授 深瀬 浩一(理学研究科 化学専攻) MANABE Yoshiyuki , KABAYAMA Kazuya , FUKASE Koichi (Graduate School of Science)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 理学研究科・理学部 (Graduate School of Science, School of Science)

English Information

研究の概要

糖鎖は、核酸、タンパク質に続く第3の生命鎖と呼ばれ、多くの生命現象に関与する。しかし、糖鎖は、非鋳型的に数百の酵素を介して生合成されるため、多様かつ不均一性な構造を持ち、分子レベルでの機能解析・制御はほとんど進んでおらず、医薬等への応用も限られている。我々の研究グループでは、化学的アプローチで、糖鎖機能の解明と制御を進めている。この際、糖鎖は、生体内において、タンパク質や脂質と複合化して存在し機能することに着目し、化学合成した糖鎖をさまざまな生体分子と複合化することで、糖鎖機能の理解・制御を検討している。本研究では、糖鎖によるタンパク質の動態制御の機能に着目し、抗体を化学的に糖鎖修飾することで、その細胞内への内在化を抑制し、結果として免疫誘導活性を向上させることに成功した。本研究を通して、糖鎖を利用した新規生体機能制御法を提案するとともに、糖鎖の生体内での作用メカニズムにも迫ることができた。

研究の背景と結果

抗体はもっとも一般的な医薬品の一つである。抗体の活性はその動態と密接な関係がある。例えば、抗体がエンドサイトーシスによって標的細胞に速やかに取り込まれると、十分な免疫応答を誘導することができない。一方、糖鎖は細胞表面を覆うように大量に存在し、さまざまな生体分子と相互作用し、細胞内への内在化などの動態制御に重要な役割を果たす。本研究では、糖鎖 – レクチン(糖鎖認識タンパク質)相互作用を利用し、抗体の動態を制御し、その薬効向上に成功した。具体的には、乳がんに対する治療薬として利用されている抗 HER2抗体にガラクトースを含む糖鎖を導入し、ガレクチン -3(ガラクトース認識レクチン)との相互作用を利用することで、抗体の内在化を抑制し、免疫誘導活性の増強に成功した。
より詳しく見ていくと、ガレクチン -3は細胞表層の糖鎖とガレクチン格子と呼ばれるネットワーク構造を形成し、ここに糖鎖修飾した抗体が組み込まれることで、抗体の内在化が抑制されていることが示唆された。抗体の Asn297にもともと存在する修飾糖鎖の改変に関する報告は多数あるが、糖鎖を新たに付加することで、抗体活性を調節するアプローチは前例がなく、これは、糖鎖付加により抗体の細胞表層における動態を能動的に制御した初めての例である。
加えて、本手法では、体内に存在する内因性の糖鎖を利用しているため、副作用はほとんどないと期待できる。本手法は、既存の抗体医薬の活性向上や、開発途中で脱落した抗体医薬品の再開発に利用可能な有望な手法になる可能性がある。

図1 化学的アプローチによる糖鎖機能の解明と制御

研究の意義と将来展望

糖鎖はもっとも一般的な翻訳後修飾で、60%以上のタンパク質には糖鎖が付加し、付加した糖鎖は、その構造に基づいてタンパク質の活性を制御する。
本研究では、糖鎖を利用してタンパク質の動態・活性を制御する汎用性の高い手法を提案しており、さまざまなタンパク質医薬品への展開が期待できる。糖鎖に着目した新たな生体機能制御法を提案した本研究は、革新的な医薬品開発につながるシーズを提供し得ると期待している。

図2 糖鎖修飾による抗体の動態・活性制御

担当研究者

助教 真鍋 良幸、准教授 樺山 一哉、教授 深瀬 浩一(理学研究科 化学専攻)

キーワード

糖鎖/抗体/免疫/レクチン

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

参考URL

https://researchmap.jp/researchmap_manabe
https://researchmap.jp/KK007398
https://researchmap.jp/read0076573

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。