研究 (Research)
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光駆動プロトン輸送タンパク質の輸送機構解明 (Elucidation of the transport mechanism of light-driven proton transporting proteins)
教授 水谷 泰久(理学研究科 化学専攻) MIZUTANI Yasuhisa (Graduate School of Science)
研究の概要
細胞の中では、膜を挟んだプロトン(水素イオン)濃度差を利用してエネルギー変換や物質輸送が行われている。このプロトン濃度差は、プロトンを能動的に輸送するタンパク質によって作られ、それらはプロトンポンプと呼ばれる。一部の微生物から、光エネルギーを利用したプロトンポンプが見つかっており、これらは細胞の内側から外側へプロトンを輸送する、外向きプロトンポンプであることがわかっている。最近、立体構造は類似していながら、従来のタンパク質とは逆向き、つまり内向きにプロトンを輸送するタンパク質が発見され注目を集めている。しかし、逆向きのプロトン輸送のメカニズムは解明されていなかった。我々は、内向きプロトンポンプの一種であるシゾロドプシン4(図1)について、タンパク質中に含まれるレチナール発色団の構造変化を観測し、従来のタンパク質の場合に比べて、構造変化の順序が入れ替わっており、そのために逆方向にプロトンを輸送できることを解明した。
研究の背景と結果
我々は、内向きプロトンポンプの一種であるシゾロドプシン4について、時間分解共鳴ラマン分光法を用いて、タンパク質中に含まれるレチナール発色団の構造変化を観測した。従来のプロトンポンプは、光吸収による異性化(光異性化)、シッフ塩基の脱プロトン化の後、再プロトン化してから再異性化を起こすことがわかっている(図2左)。一方、シゾロドプシン4では、シッフ塩基の脱プロトン化の後、再異性化してから再プロトン化を起こすことが本研究から明らかになった(図2右)。つまり、再異性化と再プロトン化の順序が逆転しているのである。さらに、この違いは、シゾロドプシン4が従来のプロトンポンプとは逆向きにプロトンを輸送することを大変うまく説明する。従来のプロトンポンプは、光異性化によってシッフ塩基を細胞内側に向けてプロトンを放す。しかし、そのプロトンは細胞外側へ運ばれなければならないので、細胞外側にある、負電荷をもったアミノ酸残基がプロトンを引き寄せると考えられている。プロトンを失ったシッフ塩基は細胞内側を向いたままで細胞内からプロトンを受け取り、再異性化によって細胞外側を向く。一方、シゾロドプシン4は、異性化によって細胞内側を向いてプロトンを放し、それはそのまま細胞内へ放出される。その後再異性化して細胞外側へ向きを変え、細胞の外側からプロトンを受け取る。従来のプロトンポンプのシッフ塩基は、プロトンを放す向きと膜外へ放出する向きが合っていないのに対して、シゾロドプシン4ではプロトンを放出する向きとプロトンを膜外へ放す向きも、プロトンを受け取る向きとプロトンを膜外から取り込む向きも合っているという、極めて合理的な、かつこれまでにないメカニズムでプロトンを輸送していることがわかった。
研究の意義と将来展望
本研究成果は、発色団の構造変化の順序がプロトンの輸送方向を決定する因子の一つであることを示している。この発見をきっかけに、他の内向きプロトンポンプについてもメカニズムを解明し比較することで、プロトン輸送原理の理解やプロトンポンプの分子設計に道が拓かれることが期待される。
担当研究者
教授 水谷 泰久(理学研究科 化学専攻)
キーワード
光エネルギー変換/プロトン移動/タンパク質ダイナミクス/時間分解分光法
応用分野
光エネルギー変換
参考URL
https://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/mizutani/index-jp.html
https://researchmap.jp/read0182663