研究 (Research)
最終更新日:
筋トレにより筋肉が肥大する新規メカニズム (Novel mechanism inducing muscle hypertrophy via cell communications)
教授 深田 宗一朗(薬学研究科 再生適応学分野) FAKADA So-ichiro (Graduate School of Pharmaceutical Sciences)
研究の概要
骨格筋は主に、筋線維と呼ばれる多核細胞で構成されている。筋トレによる骨格筋の肥大には筋線維の核の数が更に増加することが必要であり、骨格筋固有の幹細胞である筋サテライト細胞がその役割を担っている。しかし、筋トレによる力学的負荷依存的にどうやって筋サテライト細胞が応答し、肥大に貢献しているかについては長年の謎であった。我々は、骨格筋の間質に存在する細胞(間葉系前駆細胞)が力学的負荷の増加を感知し、それにより筋サテライト細胞の増殖を誘導する因子を分泌していることを明らかにした。
研究の背景と結果
骨格筋は我々の体の30-40% を占める最大の臓器であり、筋線維と呼ばれる多核細胞で構成されている。骨格筋は寝たきりやギプス固定時のように、使用しない状態が長く続くと萎縮する。また、加齢によっても骨格筋は萎縮し、転倒による骨折リスクの増加や活動量低下、ひいては健康寿命の短縮につながる。そのため、政策として健康寿命延伸を掲げる我が国においても、骨格筋の萎縮は解決すべき喫緊の研究課題である。一方で、骨格筋は、筋トレに代表されるように鍛えることで肥大する能力も持っている。骨格筋が肥大するメカニズムが解れば、萎縮治療の予防法・治療法開発や健康寿命延伸への革新的な薬剤開発につながる可能性が高いため、運動器研究分野で最も研究が盛んな領域の一つである。
これまで解明されてきた筋トレによる筋肥大メカニズムの一つとして、筋線維における核数の増加があげられる。この核数の増加には、骨格筋固有の幹細胞である筋サテライト細胞が必須であることは知られていた。しかし、筋トレによる物理的な力に対してどうやって筋サテライト細胞が応答するかについては長年の謎であった。一般的には筋サテライト細胞の増殖は、筋トレにより筋線維が壊れることがその引き金になると言われていたが、以前の研究で我々は筋線維が壊れなくても、筋サテライト細胞が増殖できることを発見していた。
今回、我々の研究グループは骨格筋に常在する間葉系前駆細胞に着目し、この細胞が筋トレによる物理的な力に応答し、筋サテライト細胞の増殖に必要な分子を分泌していることを発見した。さらに、この間葉系前駆細胞と筋幹細胞のリレーが十分に行われないと、筋線維核の増加が見られず、筋肥大効率が劇的に低下することも明らかにした。
研究の意義と将来展望
近年、様々な臓器に存在する間質細胞(線維芽細胞)が注目を集めており、組織や臓器毎に分化能力・発現分子が異なることが解明されてきている。骨格筋に存在する間質細胞は、極めて脂肪細胞への分化能が高く、瘢痕形成の原因となる一方、骨格筋の恒常性維持・再生にも必須であることが知られており、骨格筋疾患の創薬標的として注目を集めている。
我々の今回の研究は、骨格筋間葉系前駆細胞が筋肥大に関わるという新たな側面を明らかにしただけでなく、萎縮性の疾患においても間葉系前駆細胞が標的になる事を示している。今後、筋トレ時で見られる間葉系前駆細胞の応答を安全に薬などにより再現することができれば、画期的な抗筋萎縮治療薬開発につながることが期待される。
担当研究者
教授 深田 宗一朗(薬学研究科 再生適応学分野)
キーワード
筋トレ/間質細胞/筋幹細胞
応用分野
医療・ヘルスケア
参考URL
https://fukada88.wixsite.com/mysite
https://researchmap.jp/mdx