研究 (Research)

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位置選択的重水素化ならびに多重重水素化の開発と創薬への利用 (Site-selective and multiple deuteration and application to drug discovery )

准教授 澤間 善成、教授 赤井 周司(薬学研究科 薬品製造化学分野) SAWAMA Yoshinari , AKAI Shuji (Graduate School of Pharmaceutical Sciences)

  • 医歯薬生命系 (Medical, Dental, Pharmaceutical and Life Sciences)
  • 薬学研究科・薬学部 (Graduate School of Pharmaceutical Sciences, School of Pharmaceutical Sciences)

English Information

研究の概要

重水素 (D) は、水素 (H) の放射性のない安定同位体である。重水素を有機分子に組み込んだ重水素化体の有用性が、近年注目されている。我々は、重水素創薬に資する位置選択的に重水素を組み込んだ重アルキル化試薬を開発した(図1)。重医薬品は、医薬品の CYP 代謝部位(主にヘテロ原子α位)の C-H 結合を安定な C-D 結合に置き換えたものであり、医薬品の代謝安定性が向上する。我々の試薬を用いることで、重医薬品開発の多様性が格段に拡充される。実際に、重エチル基を導入した化合物において、初めて代謝安定性を観測することに成功した。また、分子全体に重水素を導入する多重重水素化法も開発し、重水素タグ医薬品を用いた生細胞ラマンイメージングを達成した(図2)。すなわち、PPh3を重水素化し、重水素化医薬品Mito-Q-d15を調製した。ラマン分光において、サイレント領域(生体関連物質のシグナルが出ない領域)に C-D 結合のシグナルが観測される。この特性を利用して、 Mito-Q-d15のミトコンドリア内への取り込みを可視化した。

研究の背景と結果

元医薬品の構造の一部を重水素で置き換えたデューテトラベナジンが、2017年に初めて重医薬品として承認された。また、2020年には元医薬品(H 体)が存在しない重医薬品デュークラバシチニブが上市された。承認された2つの医薬品は、重メタノールなどから容易に調製可能な重メチル体である。現在、重医薬品開発が激化しているが、重水素創薬に適用できる試薬が限定されることが課題である。
そこで我々は、CYP 代謝部にあたるヘテロ原子隣接位にのみに定量的に重水素を組み込みこめる試薬の開発に着手した。その結果、アルキルジフェニルスルホニウム塩の反応特性を利用することで、最も安価な重水素源である重水中塩基を用いることで、硫黄隣接位のみに定量的に重水素を導入することに成功した(図1)。この試薬は求電子的重アルキル化試薬として利用できるのみならず、多様な試薬(重アルキルアミン、重アルキルアジド、重アルキルハライド)などにも変換ができる。この成果により、多様な重医薬品開発が可能となった。また、C-D 結合の特徴的に分光シグナルを用いた分子イメージング法(ラマン分光、中性子散乱、D 核磁気共鳴画像法など)も注目されている(例:図2)。
しかし、目的とする重水素化体の合成には高価な重水素化素子を用いた多段階の合成が必要とされる。我々は、白金族系触媒を用いることで、有機分子の全ての C-H 結合を C-D 結合に置き換える多重重水素化法を開発してきた(図3)。分光シグナルの感度を向上させるために、多くの C-D 結合を分子に導入する必要があり、我々の多重重水素化法が有効である。有機 EL 材料の C-H 結合を C-D 結合に置き換えた化合物も、劣化が抑制されるために有用な材料として注目されている。重水素化体の有用性は多分野で認識されつつあり、今後の需要が増すことが予想される。

研究の意義と将来展望

重水素化体の有効性は十分に認識されているが、目的の重水素化体の入手困難性が問題である。我々は独自の手法により多様な重水素化体が合成可能である。今後、様々な分野への利用を推進していく。

担当研究者

准教授 澤間 善成、教授 赤井 周司(薬学研究科 薬品製造化学分野)

キーワード

重水素/重医薬品/有機化学/分子イメージング

応用分野

創薬/機能性材料/分子イメージング

参考URL

https://handai-seizo.jp/
https://deut-switch.pharm.kyoto-u.ac.jp/
https://researchmap.jp/sawama
https://researchmap.jp/shuji_akai

論文

– Akai, Shuji; Sawama, Yoshinari et al. Sulfonium salt reagents for introduction of deuterated alkyl groups in drug discovery. Angew. Chem. Int.
Ed. 2023, e202311058. doi: 10.1002/anie.202311058
– Akai, Shuji; Sawama, Yoshinari et al. Multiple deuteration of triphenylphosphine and live-cell Raman imaging of deuterium-incorporated
– Mito-Q. Chem. Commun. 2023, 59, 12100–12103. doi: 10.1039/D3CC04410F

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。