研究 (Research)

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ランタノイド金属触媒による二酸化炭素をC1炭素源とする有機合成反応の開発 (Fixation of CO2 as a C1 source into organic compounds catalyzed by lanthanide metal complexes )

教授 劒 隼人(工学研究科 物質創成専攻) TSURUGI Hayato (Graduate School of Engineering)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 基礎工学研究科・基礎工学部 (Graduate School of Engineering Science, School of Engineering Science)

English Information

研究の概要

二酸化炭素を炭素源とする有機合成反応として、アミン誘導体のメチル化反応を開発した。この反応では1気圧の二酸化炭素雰囲気下、触媒量のランタン錯体とホウ素化合物、還元剤としてヒドロシラン、基質として第二級アミンを用いて反応を行うことで、アミン窒素上のメチル化反応が進行した第三級アミンが選択的に得られる。本反応の詳細を計算化学的な方法を用いて検証したところ、ランタン錯体とホウ素化合物からなる会合体(図2)が二酸化炭素のヒドロシリル化反応に活性を示すことが分かった。
その結果、生成するギ酸シリルエステルが第二級アミンと反応することで、ホルムアミド誘導体を与える。最終的に、触媒反応条件下でホルムアミドが脱酸素還元されることで最終生成物であるメチル化されたアミンを与えることを明らかにした。

研究の背景と結果

二酸化炭素は炭素の酸化度が最も高い分子であり、様々な有機合成反応に用いるためには、その還元反応によりギ酸やホルムアルデヒド等の酸化度の低下した部分還元体へと誘導化することが必要である。しかし、二酸化炭素は熱力学的に安定なことから還元反応にはエネルギーを必要とするとともに、部分還元体はさらなる反応を起こしてメタンへと還元されやすい。
従って、いかに部分還元体を速やかに有機合成反応に利用するかが重要である。今回、イオン半径が大きなランタン錯体を触媒とし、中程度のルイス酸性を示すトリアリールホウ素とヒドロシランを用いることで、ヒドリドボレートアニオンを有するランタン錯体が生じ、二酸化炭素のヒドロシリル化が温和な条件下で進行することを見出した。さらに、第二級アミンを加えて反応を行うと、二酸化炭素のヒドロシリル化により生じる部分還元体であるギ酸シリルエステルと第二級アミンが反応してホルムアミドを与え、さらに同反応条件下でアミドの脱酸素還元が進行することで、アミン窒素のメチル化反応に至ることを明らかにした(図1)。
触媒検討において、ランタン以外の希土類金属を用いるとその触媒活性は低下することから、中心金属のイオン半径が反応性に影響を与えることが分かった。また、特にアニリン誘導体を基質とする場合に効率的に反応が進行し、様々な置換基を有するジアルキルアニリン誘導体を得た。本反応の詳細を明らかにするため、理論計算を用いて反応の各段階を検証した結果、二酸化炭素がランタン中心に配位し、その対アニオンであるヒドリドボレートによる還元反応を起こす反応が最もエネルギーを要する段階であり(図3)、この際に必要となる反応エネルギーは助触媒として用いるトリアリールホウ素のルイス酸性が大きく影響を与えることが分かった。
さらに、反応の遷移状態エネルギーの低減には、カチオンであるランタン錯体とアニオンであるヒドリドボレートの間に生じる非共有結合相互作用が重要であることも明らかとなった。このように、実験から裏付けられる各種データに加え、理論計算を用いて反応機構の詳細を明らかにするための検討を行うことで、様々な分子が関与する触媒反応の中での各成分が果たす役割を明らかにし、高活性な触媒活性種がどのようにして生じるかを明らかにした。

図1 第二級アミンのメチル化反応
図2 触媒活性種の分子構造
図3 CO2の水素化還元の機構

研究の意義と将来展望

温室効果ガスである二酸化炭素を有機合成反応における炭素源として用いる反応は、化石燃料に依存せず、地球上にすでにある炭素資源を循環活用する観点から重要な研究対象である。特に二酸化炭素を反応試剤として捉え有機化合物に直接取り込むための触媒開発は、有機合成化学の観点から二酸化炭素の削減に貢献するための科学技術となる。
これまでに二酸化炭素を有機化合物中に固定化するための様々な触媒が開発されてきたが、低濃度の二酸化炭素を含む混合気体雰囲気下で選択的に二酸化炭素のみを活用するための触媒の改良は、将来的に大気中の二酸化炭素を有機合成反応に直接活用するためには不可欠である。そのための手法として、二酸化炭素を様々な有機合成反応に応用しやすいギ酸エステル等に変換するための高活性な触媒が注目を集めており、さらに二酸化炭素が触媒活性中心に相互作用しやすい希土類金属等のルイス酸性の強い金属錯体を用いて研究を進めている。

担当研究者

教授 劒 隼人(工学研究科 物質創成専攻)

キーワード

二酸化炭素固定化/均一系触媒/有機合成反応

応用分野

有機合成/医薬合成

参考URL

http://www.chem.es.osaka-u.ac.jp/cmf/index.html
https://researchmap.jp/h_tsu

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。