研究 (Research)
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体腔リンパ組織の形成を制御するストローマ細胞の発見 (Discovery of fibroblastic reticular cells that regulate body cavity-associated lymphoid tissues )
特任准教授 岡部 泰賢(免疫学フロンティア研究センター 恒常性免疫学) OKABE Yasutaka (Immunology Frontier Research Center)
研究の概要
胃や腸菅、膵臓などの所謂内臓を収める腹腔は本来、無菌的な空間です。しかし穿孔性虫垂炎、肝硬変、膵炎、腹部手術、腹膜透析などを原因として腹腔内に感染がおこり重篤化すると、細菌や毒素が全身をめぐり多臓器障害を伴う致死的な敗血症を引き起こす危険性があります。
腹腔内臓器のひとつである大網に形成されるリンパ組織『大網乳斑』は腹腔内の感染に対する免疫応答において中心的な役割を担います。しかし、大網乳斑が形成される仕組みについてはほとんど理解されていませんでした。今回、私たちは大網乳斑特異的に存在するストローマ細胞を同定し、リンパ組織形成における役割を明らかにしました。
研究の背景と結果
今回、私たちは大網乳斑に存在するストローマ細胞について解析を行い、レチノイン酸の産生を特徴とする細網線維芽細胞(Fibroblastic Reticular Cell: FRC)を同定し、この細胞を Aldh1a2陽性 FRC と名付けました。FRC はリンパ組織において区画化された機能的構造を形成し、各種免疫細胞が分化・活性化・成熟し免疫応答を担うための『場』を提供する特殊なストローマ細胞ですが、興味深いことに Aldh1a2陽性 FRC は大網乳斑に特異的に存在する FRC であり、他のリンパ組織には見出されませんでした。
また私たちは、Aldh1a2陽性 FRC がレチノイン酸の産生を介して高内皮細静脈(High Endothelial Venule: HEV)と呼ばれる特殊な血管にケモカイン CXCL12の発現を誘導し、大網乳斑へのリンパ球のリクルートメントを制御することを明らかにしました。
研究の意義と将来展望
敗血症は感染症を原因とし、心臓、肺などの身体の重要な臓器の機能が障害される病気である。ショックや著しい臓器障害をきたす場合は死に至る危険性もあり、その死者数は世界で年間1100万人に上ることが推計されている。腹腔内に感染が起こると細菌や毒素が容易に全身に波及することから、腹腔内感染は敗血症の原因として2番目に多い感染部位として報告されている。大網は腹腔内の感染の波及を防ぐ役割を担う重要な組織であるが、その機能については明らかにされていない部分が多い。
今回、大網に存在するリンパ組織の形成に必須の役割を担うストローマ細胞を同定した。本研究を発展させることで腹腔内感染の波及を防ぐメカニズムや敗血症の予防・治療法の発展が期待される。
担当研究者
特任准教授 岡部 泰賢(免疫学フロンティア研究センター 恒常性免疫学)
キーワード
リンパ組織/レチノイン酸/ストローマ
応用分野
感染症/敗血症
参考URL
https://kyotonewhaven.wixsite.com/mysite
https://researchmap.jp/7000018117